始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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書き込み雑記帖

 <当ブログについて>
 
 何ヶ月も更新をさぼっている管理人ですが、元気にしております。
 
 一時期、妙なことから不快感を募らせ、すっかり書く気力まで失せてしまったのですが、そのおかげで、そもそもこのプログを始めたきっかけが何であったのかを思い出すことができた次第です。
 
 一言で言うならば、自分の心の整理のために参加したはずが、いつのまにかおかしな方向に走り出していた、ということに尽きるでしょうか。
 自分なりに出した結論として、とりあえずFC2のランキングは外してしまうことにしました。

 今はひっそり埋もれている方が性に合っている気がしています。

 とは言っても、巌爺さんだけは(不覚にも?)更新を約束してしまった読者の方がおられるので不定期更新ということになるかと思います。

 ふらふらととぼけている間にも何かありましたら、こちらに伝言を残して下されば、それなりの善処をさせて頂きたく、よろしくお願い申し上げます。
 ただし、冷やかし、その他誹謗中傷に値すると思われるものは管理人の権限として削除させて頂きます。 

 平成20年3月3日 再生に向けて  
 

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巌爺さん交遊録3の1

 歩くとなるとさすがに少しきついだろうな、巌はそんなことを思いながらカブにまたがってその坂道を上って行く。
 たいした勾配ではないが、頂上まで行けばかなり長い坂である。
 ひと昔前と違って坂道はアスファルトで舗装されているものの、あたりの段々になっている田畑や集落は何一つ変わっていない。
 坂を上りきったところにはこのあたり一体の集落をほぼ檀家として掌中に納めている寺院がある。
 檀家であることは巌の家も同じなのだが、不幸があるか寺の総代でもしていない限りほとんど来ることのない場所だった。ゆえに巌には何年振りかの懐かしい場所である。
 上っている坂はただまっすぐ辿ってさえいれば寺の正門に案内してくれる。が、途中の分岐点で左の道を選べば住職の居宅に行き着く。
 巌は迷うことなく左にカブの鼻先を向けた。
 濃緑の葉を繁らせた雑木のトンネルが夏の日差しをさえぎり、木漏れ日が路面にちらつく。そのほどよい朝の陽光を浴びながら巌は脇見もせずに前に進んだ。カブの荷台にはみかん箱ほどの大きさの段ボール箱がしっかりくくりつけられている。
 
 頂上に着くと白壁の塀を背に品のいい初老の婦人が佇んでいた。それと気付いた巌がにっと微笑むと彼女も微笑んだ。住職の奥方、艶子である。淡い、ピンクというより桜色のブラウスが色白で薄化粧の彼女を引き立たてている。
 カブから降りた巌はその立ち姿に目を細めた。
 「若いの、ツヤさん」
 その艶子の頭上で中庭のさるすべりが塀の瓦を越えて咲きこぼれている。ショッキングビンクとも言うべきその色彩はいつも盛夏を引き立てる。
 艶子は、ほほ、と唇をすぼめ、
 「あなたこそ。さっきからずっと見ていたのよ、あなたがあがって来るところ」
 いたずらっぽく微笑うと、巌の傍に来て寄り添うように立った。そして、
 「ね、何か分かったんでしょ?」
 巌の腕に軽く手を触れて言う。
 その真剣なまなざしに巌は一瞬たじろいだ。
 ここへの来訪こそ何年か振りだが、艶子とはほんの二ヶ月くらい前に会ったばかりであった。
 まだ暑くなる前のことで、艶子が巌の家にひょっこり寄ったのだ。そのとき艶子から一方的に受けた相談事はずっと巌を悩ませて来た。今でも引き受けたというはっきりした意思があるわけではなかった。
 中庭に入った巌は、ここに来るとそうすることが慣例であるかのように、カブをさるすべりの木陰に停めた。困惑の面持ちでヘルメットを取ると裏山から降り注いで来る蝉時雨がいっそう鮮明になり、山頂の朝の空気が巌の頭の中に染み渡る。
 本堂の方に目をやると、背後の竹林が涼風に揺れ、脇に植えられた楓はまるで心地よい緑の寝床のようだ。
 「ね、お話、中で伺うわ。今日はよく冷えた甘酒があるのよ。お好きだったでしょ?」
 艶子は誘うように身を翻した。
 「いやいや、かまわんでええ。わしゃ、すぐ帰るから。それよりツヤさん、もらった野菜が余ってな、持って来たのよ。降ろして帰ってもええかな」
 巌は荷台のゴム紐を解き、段ボール箱を両腕で抱えた。野菜だけは収穫最盛期になるとみんながいっせいに持って来てくれるため余ることもしばしばだった。そうなるとそれをどこに回そうかと巌も忙しいのである。
 「お野菜? うれしい、頂くわ」
 畑を持たない住職の奥方は、にっこり微笑んだ。が、足早に玄関に向かって歩き、引き戸を開けると巌を振り返った。
 こちらに運んでください、ということらしい。
 どうもこのひとにはかなわぬ、巌はそう自覚しながらも艶子と連れ立って中に入る羽目になっていた。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

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巌爺さん交遊録2の6

 中田の話を聞き終えた巌は、
 「ナカさんよ、わしゃ金はもう帰って来んと思うがの。株券もとっくに金に変えてあると思うの。他には何もないんか、よう思い出してみ。取り返せるもんは取り返してきたるから」
  株券を登志子がどこに売り飛ばしたのかは疑問だが、まともなところではないはずである。戻って来ることはまず考えられなかった。
 他に中田が思いだせるものは何もなかった。あるのは携帯と給油カードくらいのものである
 「それでもええ。家はどこかの、わしが行って来る」
 巌爺さん、久し振りに癪に障る相手だった。田舎の年寄りをターゲットにする結婚詐欺師まがいの泥棒だと断定した。
 登志子は今時間ならいるはずだという。その中田が一緒に行くと言うのを断った巌は、母屋に走り猪下に電話を入れた。
 「イノさんよ、ちょっとすまんが、車を回してもらえるかの。あんさんは運転手」 
 いきなりやられた猪下はびっくりした。
 「イワさん、何事かの」
 「ええから、さっさと来る」
 いつもならカブに飛び乗る巌だったが、したたかな女相手に一人では何を言われるか分からないという思いがあった。
 間もなく滑り込むように駐車スペースに侵入して来た猪下の車。それに飛び乗った巌は、ドアを閉めるのももどかしく、行き先を告げた。
 女はもうそこにはいないかもしれない。その思いが巌を急かしていた。

 登志子は当然とっくにそこを引き払っていた。引き払ったのは中田に電話を入れた翌日である。県北の観光地にある旅館の仲居の口を都合してもらい、軽トラで充分間に合うわずかな荷物とともに行方をくらませたのだった。
 本当は登志子は県境を越えようと思っていた。が、ずっと以前から頼んでいたにもかかわらず、いくら聞いて回ってもすぐに口があったのは、そこだけだった。中田が自分の犯行に気付かないうちに逃げる必要があったため急遽そこに決めたのだった。
 女の住まいがもぬけの殻と知った巌はすぐ自宅に取って返し、中田を拾うと被害届けのため警察に駆け込んだ。そこで巌たちは初めて登志子が手配中であることを知ったのである。容疑は巌が睨んだとおり、窃盗であり、何件もの被害届けが出されていた。
 登志子は本人確認が必要なものなどには手をつけないで、不法であってもすぐ現金にできる手軽なものだけを狙う詐欺師であり、窃盗犯だったのだ。
 いろんな意味で登志子は住む世界が違う人種と言えた。
 手配写真でその顔を初めて見た巌は、犯罪者然としてはいたが、なるほど中田には惜しいくらいの女だ、と思った。
 全てを知ってしまった中田の驚愕振りは並大抵のものではなかった。付き添った巌と猪下にもなす術はなかった。カードなど登志子が持ち去ったものは全部紛失届けを出させたが、確実に間に合ったのは携帯と給油カードくらいのものである。
 そして巌の家の玄関先で懸崖が満開になった頃、登志子はついに御用になった。仲居として渡り歩く登志子は中田が被害届を出したときには、すでに捜査の網の中に入っていたのだ。
 登志子は窃盗で得た金を衣装や遊興費などに使い果たしては、新しい獲物を狙うことを繰り返して来た女であった。中田が市街地で見掛けたとき登志子はすでに狙っていた財産を掠め取ったあとであり、おいしいところがないと分かっている中田などに付き合って遊ぶ気などなかったのである。
 被害に遭った金は刑事訴訟ではどうにもならないと聞かされた中田は、警察署であれほどの狼狽振りを見せたにもかかわらず、
 「ええんよ、イワさん。わしゃ、恨んではおらん。あんな女じゃったけど、あれも寂しい奴だったんよの。あの女のおかげで、わしゃええ夢を見させて貰うた。おかあが死んで寂しかったんよの、わしも。さいわい葬式代や入院費用だけは息子に預けてあったから無事だったんよ。死ぬときの準備をおかあがしてくれとったのよ」
 巌の庭先でカラカラと笑って報告した。
 「あとは何とか生きていけりゃあそれでええ」
 と中田は自分が丹精こめた鉢を見ながら呟く。
 「なあ、ナカさんよ。ジジイになったら金にきれいな付き合いがええよのぉ」
 巌は、ふふ、と笑ってそれに応えた。
 若い頃のように女にしてやれなくなる、それが当たり前なのだ、と巌は思っている。金をかけなくても、お互い楽しい時が過ごせるのならば、それが一番よいのだ。
 
 それから数ヶ月のち、懲りたのかと思いきや、中田は新しい女をシビックに乗せて巌の離れを訪れた。やっと踏ん切りがついたのであのオンボロ車は売ったのだ、と言う。
 助手席の女をじっと透かし見た巌は、なんとなく納得できるものを感じた。年のころは登志子と変わらないが、登志子と違ってその女からは専業主婦として真面目に生きてきた匂いが漂っていた。
 「イノさん、今度は大丈夫よ」
 中田が去ったあと、巌は土間に座り込んでいた猪下を振り返り、ンフフ、と笑った。
 そうか、と猪下もにんまりした。
 中田はそれから間もなく、そのときの女を妻に迎え、夕方になれば何の変哲もない田舎道を二人で散歩するのだった。(完)

 
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