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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(6)

 不二子さんはイチコから請求されたものをコタツの上に置くと、脇に置いてあったレジ袋の中を覗き込んだ。二階に上がって来たとき、イチコが手渡したものである。先日の弁当のお礼だった。中には温室育ちの洋花が二鉢入っている。
 「わあっ、あんた、これあたしにくれるの?」
 「うん? 花が好きだって言ってなかったっけ?」
 イチコはそう言ったが、本当は弁当代に見合うものを選んだのである。この彼女に何かしてやったと思わせるのが気に入らなかった。
 不二子さんが花を抱えて置き場所を求めている間に、イチコは手元に引き寄せていた書類を開いた。
 借用証書と手形を見比べながら、イチコは妙なことに気づいた。手形と借用証書は枚数が合わないばかりでなく、額面も日付も合わなかった。つまり借用証書は手形とはまったく別の契約だということである。しかも種類もまちまちで、文具屋でも手に入るものもあった。これらはどこかの街金のものであり、複数の街金が介在していたことを推測させた。
 「なに、これ?」
 イチコは先日と同じことばで訊ねた。
 「なにって、あんた。わたしが引き上げて来たんじゃない。もっとあったはずだけど、引越しのときにどっか行っちゃったかも。こないだうちから片付けしながら探したのよ、それも」
 彼女はそう言う。イチコは彼女のこのことばで、森田の言った領収書の意味を理解した。
 彼女が貸主ならば領収書など作る意味はないが、彼女が松木の債務を立て替えて払ったのだとしたら領収書の持つ意味は大きい。では手形もどこかの街金の金庫に入っていたのではないか、とイチコは当然その考えに行き着いた。
 この後に及んでさっさと事情を全部白状しない彼女にもイチコはじれていた。森田にだけ打ち明けてくれたのでは、もう収まらないところまで来ているのである。
 「こんなに松木のばっかり、何なの?」
 「だってあんた、うちのおっさんが連れて来たのよ、松木は。面倒見てやってくれって言うから」
 おっさんというのは平成六年以前に別れた亭主のことであるが、イチコはそんなことを聞いているのではなかった。
 「何でこんなにあるの? 何で今まで放置してたの?」
 「だって信じてたのよ、松木のこと。みんな保証人はマスターじゃ駄目だって、ママがいいって言うから」
 だから払わない松木に代わって全部磨いたと言うことか。それならそれで成り行きは理解できたイチコだったが、手形に関しての借用証書が一枚も見当たらないのはどういうことか、と今度は言いたくなる。彼女の口調から手形も街金に行っていたことは、疑う余地がなかったからである。
 「どこにやったの?」
 「それは多分、どこかに突っ込んだのよ」
 「なに?」
 「だから金利がいるから」
 金利のために完済して用済みになった借用証書で借金をしたということであろう。むちゃくちゃな女だとイチコは思った。気のせいか喋っている彼女がイチコには涼しい顔をしているように見える。
 いい加減な街金の借用証書なら、そういう手法も可能であろう、ともイチコは思った。いい加減とは、手元にある借用証書には債権者の姓名が書かれていないどころか、激しいものは契約日の記載もなかったからである。最小限必須の事項である貸付額と債務者の署名捺印だけは当然あるが、極めて闇金融の匂いが濃いものだった。
 頃はバブル期からその崩壊後にかけてのことである。松木がいかに煮詰っていたかを十二分にうかがわせていた。
 不二子さんはイチコが見ていた借用証書を自分の方に引き寄せると、それを一枚ずつ見ながら当時を思い出すかのように金融業者の名前を列挙していった。それはイチコの知らない連中ばかりだったが、彼女は繁華街に巣食っている連中とは随分ねんごろの仲のようである。
 借用証書のいい加減な出来は、思ったより細工しやすいかもしれない、とイチコに思わせた。森田の使えるという意味をイチコは、やっと確実に理解し受け止めることができたのである。
 「あのね、松木の会社の登記謄本が見たいから法務局で取って来て。閉鎖されたものでも言えばあるから」
 松木の会社が破産したらしいことは森田の事務所で不二子さんが言っていたのである。らしいではなくこれだけ街金を当たっているのだから完璧に破産しているはずである。イチコはその詳しい日付が知りたかった。計画倒産の疑いもあるが、なくても使えるシナリオが描ける気がした。
 

 

 
 
 
 
 
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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 そうですよ、おかしなお話満載ですもん(笑)
 男の方はこういうネタにはくわしいと思うのですが、不審な点がございましたら、どうぞ指摘してやってください。説明不足も多々あると思っております。
 この場面を描かないと話が進んでくれないので、ない知恵でも絞らざるを得ないのです。
 銀河さんは博識な方だと思っておりますので、ぜひご指導賜りたいです。
 いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月06日(Sat)04:26 [EDIT]

なにやらナニワ金融道で見たような話になってきましたね。
しかし、私などにはこれだけの材料で絵は描けません。

続きが楽しみです。応援のポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月06日(Sat)00:18 [EDIT]

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