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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(8)

 浅見の名前がこんなところで再浮上してくるとはイチコには心外だった。新しい債権者がそれなりに集まったら一度顔合わせのセッティングをしたい、と不二子さんは言う。
 その提案に異存はないが、イチコは浅見をメンバーに加えるということがなぜか気に入らなかった。しかし誰もいなければこの際文句を言っている場合ではない。
 その日は思っていたよりもずっと早くやって来た。
 「あんた、あした。あしたの二時。あんた仕事休みでしょ? あの子、その時間だったら抜けられるって言うから」
 前日、不二子さんはいきなり伝えて来た。
 彼女のいきなりはいつものことである。長い間水商売でカウンターを仕切って来たせいか、そのやり方が身に付いていた。指定された場所は郊外に近いファミレスである。
 イチコは訴状を仕上げて森田に一度目を通してもらってはいたのだが、直しの箇所をいくつか指摘されていた。多数の債権は見易いように一覧表を作りなさいとも言われている。今度書き直したら合格はもらえそうだという段階だった。合格すれば領収書を揃えるだけになる。

 早めに指定されたファミレスに車を入れたイチコは、すぐに中に入ることはせずそのまま駐車場で待機していた。初顔の連中ばかりのはずだから、不二子さんの到着を待とうと思ったのである。
 オーディオのボリュームを少し高めにしてシートを倒した。待っているときのいつもの体勢である。ちょうど二曲目が終ったときだった。宮下と同年輩くらいの男がひとりやって来て運転席側に立った。サラリーマンには見えないが、どう見ても筋者ではなかった。
 自分に用のある素振りであることを察したイチコがサイドをずらせて顔を出すと、
 「弁護士のことだけど、一応話は通してるから。尾上って言う弁護士なんだけど」
 男はいきなり告げた。イチコは弁護士と聞いた瞬間、今回の仲間であることを察知した。
 知恵を授けてくれた森田がこの訴訟から手を引くと言うので、次の弁護士を探していたところだったのである。
 手を引くとは言った森田だが、訴状および他の資料が仕上がるまでは見ます、とも言った。訴状の下書きを見せに行った日のことである。そのときイチコは「相談には乗ります」と言った森田のことばの本当の意味を知ったのである。
 このいきさつがあったので、イチコは目の前にいる男が不二子さんの知り合いであることに何ら疑いをはさむことはなかった。
 「じゃあ、入りましょうか?」
 イチコはキーを回してエンジンを切った。ドアを開けて体を半分すべらせるようにして外に出ると、またもうひとりジャンパーを羽織った男がやって来た。こちらはイチコより若いが、やはり筋者には見えない。 男は先の男に向けて頭を下げると、
 「お世話になります」
 「おお、どないしとる?」
 「いや、もうそれが」
 男はやけに腰が低い。この男も仲間なのか、と思いながらイチコは先に歩く二人より少し後を付いて歩き、中に入った。
 二人の男はお互い旧知の仲らしかった。若い方が浅見竜也であろうとイチコは直感する。
 中に入ると不二子さんは先に来ていたが、自己紹介などという常識的な事はなされなかった。イチコが二人の男に書類を見せ、あとは「あんた、あんた」と各々に話しかけながら不二子さんが仕切る。その様子を傍観していたイチコは若い方が浅見竜也で間違いないことを知ったのである。もう一人は石橋という名前で金融屋の過去があり、今回の事件で唯一本物の債権者であることが分かった。イチコが見た限りまともな借用証書が三枚だけあったのだが、それが石橋の借用証書だったのである。この仲間に加わるということは、まともな商売をしていたということであろう。
 金融経験の過去は浅見にもある素振りだったが、過去はその世界の人間だったのだから、イチコに言わせれば浅見の場合あって当たり前だった。
 「金利だけど、これで問題ない?」
 イチコはその確認をプロがいるのなら訊ねてみようという気になり、口を開いた。彼女が支払った金利は法外な額に上るはずだが、法で裁く場合いくら頑張ってもそこまで補えないのである。そのためできるだけ不自然でなく、すこしでも多く請求できるようにしてやりたかった。
 イチコは利息制限法で設定していたのだが、
 「うん、いんじゃない? これでいいと思う」
 男二人はそろってそう答えた。
 
 
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