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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(10)

 まるで借金サークルだ、とイチコは不二子さんが集めて来たメンバーを見て思った。
 石橋と浅見の関係にしてもそうだった。あの七年、浅見は石橋からも借金をしていたのである。
 兄貴株の男から捨てられた格好になった浅見は当然債権者たちに追われるのだが、不二子さんはその浅見を匿った。宮下に話を通したのも実は彼女だったのである。
 浅見の身柄を預った宮下は、浅見から回収した金を債権者たちに分配するのだが、石橋もその恩恵を授かった一人だったのである。
 イチコも含めて全て七年当時の借金がらみの連中ばかりである。その連中が松木の訴訟のためにこぞって集結している。
 「なんでこんなムチャをしたのかねえ」
 森田から合格をもらい、領収書の書き込みなどで何度めかの会合を開いたときのことである。不二子さんが席を外している隙に石橋がそうぼやいた。佳奈ちゃんが出席しているときだった。浅見は当然欠席である。
 「あたしもこれにやられたのよ」
 と佳奈ちゃんは先刻まで不二子さんが座っていた席を顎でしゃくった。それが当然の人情である。
 佳奈ちゃんの事情をすでに聞かされていたイチコは無言で頷いたが、松木の訴訟がきっかけで七年当時の不二子さんの周辺が明らかになって来ることに恐ろしいほどの脅威を感じていた。
 イチコは七年という年度に限って考えていたのだが、松木の事があって七年の浅見の事があるのだ。こんな当たり前のことにやっと気づいたイチコは実は不二子さんはトイチの金貸しなどしてなかったのではないか、と思い始めていた。
 「松木のためにマンションを売ったのよ、わたし。他にもう一件青田買いしてたのに、それも売ったの」
 と彼女は言ったが、マンションを売ったのは七年より前で間違いないとして、松木に続いて浅見の金の工面を松木のときと同じやり方でやっていたのだとしたら、悠長に金貸しなどしている暇はなかったはずである。手元にある金はすぐ持って行くに決まっていた。借金のために借金を引っ張るという形である。それでなければ芋づる式にこんなメンバーが集まって来るわけがないと思われた。
 トイチと言ったのは自分から金を出させるための嘘だったのではないか、とイチコは思う。松木ですってんてんになった不二子さんが浅見の世話を焼くために宮下の不在に目をつけてやって来た。そんなところではないのかとイチコは考える。佳奈ちゃんが宮ヨメに相談することを提案してくれてなかったら、未だイチコは何も知らないままだったことだけは間違いなかった。それを思うだけでもイチコは腹が立つのである。
 彼女が集めたサークルメンバーでイチコが最後に会ったのは彼女の弟である。妹の方は不二子さんがその自宅に持って行って頼んだので会わずだった。弟には不二子さんの自宅で紹介を受けたのであるが、
 「わしら銀行の保証をしてくれ何の言われて、実はこんなことにわしらを使っとったんか。そう姉貴と話したばっかりよ」
 とこちらも領収書を書きながらお冠だった。
 松木を探すのを手伝ったとはいえ、弟も詳しいことは知らなかったようである。トイチの不二子さんどころか借金まみれの不二子さんだったのである。
 イチコは自分の考えていることに絶対的な確信を持ちながら今少し黙っていることを選んだ。イチコも彼女から債権を回収しなければならないのだが、松木の訴訟結果を待つかどうか悩んでいるところだったのである。どうあってもこの女から回収してやろうという気だけは勝っていた。
 よく持ちこたえていると、イチコは我ながら思うことがある。不二子さんに関してである。これだけ腹の立つ女も珍しいとまで思っている。
 森田から与えられた課題をこなすために彼女の家で長い時間をいっしょに過ごしたイチコだが、いくら気に食わない相手でも口を利かないわけにはいかないので話をしていると、いつのまにか自分の亡父の話に及んでいたことがある。そのときの不二子さんの対応は忘れろと言ってもイチコには忘れられるものではなかった。
 「あんた、自分のオヤジとおんなじような男といっしょになって。それであんた、うちみたいになって。ああ、おっかしい」
 と彼女は首をのけぞらせて笑ったのである。
 うちみたいにとは、男がよそに子供を作って出て行くという意味である。このときばかりはさすがのイチコも今にも爆発しそうになった。
 それでも回収のめどだけは立てて置かなければ、宮下と別れてしまったなら困るのは自分である。経済的に困るだけでなく、宮下の傘下を出てしまえばこの女なら自分のことなど屁とも思わなくなり、ますます返済を怠りそうな気がした。今のうちに出来ることはして置かなければならない、という確固とした決意がイチコの爆発を抑えたのである。
 宮下とのこともあり、自分の落ち着く先もそろそろ考えなければならない時期に来ていることをイチコは感じていた。


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