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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(14)

 集まるファミレスは松木の改ざん書類を作るときに使ったところといつも決まっていた。
 やって来ると浅見はいつも不二子さんの隣に席を取った。そうすると自然にイチコとは差し向かいになる。七年からイチコに借りがある二人が目の前に首をそろえて座っているのだった。
 松木の訴訟のために会っていたときはろくに話もしなかったが、聞けば浅見はイチコよりも六歳も若かった。不二子さんとは十六歳離れていることになる。
 この二人の関係をイチコははっきりと把握しているわけではなかったが、この頃の不二子さんは浅見の過去をイチコに話し始めているところだった。むろんそういう話は浅見の来ない時にしかしない。
 不二子さんの話では七年当時の浅見には同棲していた彼女がいたらしく、この彼女は浅見のために多額の借金の保証人になっていた。それが原因で二人の仲が破綻したのかどうかは分からないが、浅見は現在独り身である。
 「あの子たちじゃどこも貸してくれないから全部あたしが口を利いてやったのよ」
 当時を振り返る不二子さんのこういうせりふからもトイチが嘘であったことは証明されているのだが、
 「あの子とあたしができてるって思ってた客もいるのよ。あんた、あんた方のおっさんのことだってみんなそう思ってたんだから」
 そんなことを平気でしゃべる彼女のことをイチコは、松木の事といい男を育てる趣味でもあるのか、と腹の中だけで考えていた。そう考えたのは浅見と不二子さんの間に、彼女のことばどおり本当に男と女の匂いを感じなかったからである。
 女同士の奇妙なデートに突然入って来る浅見は、仕事帰りのせいで腹が空いているのだろう、
 「何か食べてもいい?」
 そう不二子さんに甘えることが多かった。受ける不二子さんも甘い。
 「うん、食べたら」
 「じゃあ、これいい?」
 と浅見が頼むのは定食セットだったりする。不二子さんはうんと頷くだけである。こんな光景をずっと目の当たりにさせられたイチコは、何度目かの時に思ったとおりのことを言った。
 「あなたたち、まるで親子だよね」
 「ちょっと変なこと言わないでよ。あたし、この子のお母さんなんかいやよ」
 「ぼくだっていやですよ」
 二人は反発し合って見せるのだが、イチコはその間に自分の入る隙がないことを感じていた。
 「あんた、いい? あたしはあんたのお母さんでもないし、それからあんたの彼女でもないの」
 「あんたが彼女だなんて、こっちこそジョーダンじゃないよ」
 妙に不二子さんに逆らう浅見には緊迫感さえ感じられた。
 この輪に不二子さんの息子が加わった日には、さらにイチコは入る隙がなくなる。自分の知らないウマの合った話を三人でしている様子を仕方なく眺めていると、
 「うちのおかんと浅見は付き合い長いっすから。オレが小学校五年のときからだから十年ですかね」
 彼女の息子が説明を買って出たりした。浅見はイチコの話よりも不二子さんの話によく反応していたのである。イチコが公正証書の話を切り出すチャンスはなかなか巡って来そうになかった。
 イチコはよく遭遇するこんな設定を最初は何とも思わなかったが、途中から意図的なものを感じ始めていた。浅見が仕事帰りだと称して寄るのは、不二子さんが携帯で何か指図しているのではないか、と思ったのである。そうでなければ呼びもしないのに借りのある者がのこのこ出て来るわけがないと思われた。じっとおとなしく待っていれば浅見の借金は時効になるのである。
 
 
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