始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(16)

 数日後、鳴り出した携帯に出ると、 
 「あんた、あの通帳。口座番号変わってない?」
 不二子さんは、いきなり訊いてきた。
 あの通帳とは、七年に彼女が定期を使い込んだ通帳のことである。
 「あれが、どうしたの?」
 「あたし、あの子に言った。あんた、宮ヨメだってそろそろ払って上げないと。お金がいること、これからなんだからって。あたしが持ってた振込みカードはあの子に渡した。だから口座番号だけ確認しようと思って」
 その銀行はつい最近他銀行との合併を果たし、名前が変わったばかりだったのである。
 イチコはさも手柄を立てたように語尾を上げて報告して来た彼女の口調にむかついた。
 「変わってない。そんなものがそうそう変わるわけないでしょ」
 彼女がこれまでその通帳に振り込んだものといえば年二回の金利だけである。それも銀行からの催促がいつもイチコに来ていた。それをイチコが伝えるまで行かないのである。ばかばかしいと思ったイチコはまだ新しい通帳の書き換えにも行っていない。
 「あら、そうなの? わたし変わってたらいけないと思って。あの子にとりあえず毎月二万振り込ませるようにしたから。あんたと佳奈ちゃんに二万ずつ」
 既成事実を作ったつもりか、とイチコは思った。
 「二万そこらどうするの? そんなんじゃマイナスはいつまで経っても埋まらないで? あなた、うちに一千万近くあるんだよ、分かってるの?」
 「だってあんた、わたし今払えないじゃない、子供だって大学行ってるし。ちゃんとするから待ってよ」
 なぜ浅見が佳奈ちゃんに金を払う必要があるのか。それも言ってやりたかったが、言わなかった。浅見が納得しているのならいらぬ世話というものだった。
 「公正証書。あれが一番いい」
 イチコはついにそう告げた。
 「だからちゃんとするから待ってよ」
 「息子と二人で払って来るか?」
 「んもう、あんたぁ」
 「あれもあなたの息子じゃん」
 イチコは鼻で笑った。
 既成事実が出来た以上、浅見名義のものは浅見から取り立てるしかなくなったのである。公正証書も浅見名義のものと不二子さんのものを分けて作るしかない。不二子さんの強行策が一歩先んじた格好だった。
 浅見が自分名義の債務を磨くのならば、不二子さんもそれだけ負担が軽くなるのだと考えると、イチコもその点で妥協するしかなかった。
 「あの、ちゃんと振り込んでおきましたので」
 その次イチコと会った浅見は、そう言って軽く頭を下げて見せた。

 息子の冬休みが明けても、不二子さんは奇妙なデートの主催をやめなかった。浅見を逃がさないようにつなぎ止めておくためであるのは明白だった。
 一方の浅見は不二子さんに言われて仕方なく債務の弁済を開始したというところだったのだろう。相変わらずのらりくらりの態度だった。不二子さんはしきりに給与明細を持って来て見せなさい、と強要していたが、浅見はそんなものに応じたりしない。
 イチコは浅見にそこまで言う必要はないと思っていた。浅見名義の債務は三百万である。男なら無理をして毎月五万ずつ払うとしても払えない金額ではない。まして浅見は独身であり、何より渋々であってもイチコのいるところに姿を見せるのだから、公正証書の話をしても逃げる事はないと思われた。宮下の見えない威力がよく効いている証でもあった。
 いずれ機会を見てと思っているうちに時間はどんどん過ぎて行き、この二人に向かって意思表示することをイチコが思い切ったときには夏になっていた。
  

 
 
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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、ようこそ。
 イチコさんは、いつも苦戦ですね。何してるんでしょうね。鈍いのでいつも誰かの尻拭いみたいな役目です(笑) しかも不法なことばかりで。
 いつも文字びっしりなのにたくさんのページ数を読んで頂き恐縮です。
 本日そちらにお伺いしましたが、残すところ現在連載されている長編のみくらいになっているのではないでしょうか。早く追いつきたいとは思っているのですが、更新に四苦八苦していて、なかなかご訪問が出来ておりません。でも、その分まとめて読める楽しみがありますが・・・☆(笑) いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月10日(Wed)02:28 [EDIT]

こちらはまとめた借用証書と領収書で立ち向かい、相手の松木は計画倒産で資産マイナス、すごい裁判ですが先行き不透明なのか。

それならイチコさんはまず浅見からというところですね。
応援ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月09日(Tue)21:49 [EDIT]

OTムービーさまへ

 こちらこそ、お越し頂き恐縮です。
 お仕事、日々の連載本当にご苦労様です。これから体調を崩しやすい時期になりますのでご無理をなさらず頑張っていただきたいと思います。
 完結までラストスパートですね、了解です。欠かさず伺います。

紗羅の木 | URL | 2007年09月06日(Thu)21:23 [EDIT]

紗羅の木さん、こんばんわ。毎日の連載ご苦労様です。どうもコメントの返信の仕方がいまいち理解していません。自分のブログへのコメントのあとに書くと自分の方に載るのですね。昨日一泊の大阪から戻りました、。当分仕事で地方に行かない予定なので、いっきに完結まで連載したいと思っています。自分のが完結したら、頭から拝読したいと思っています。

OTムービー | URL | 2007年09月06日(Thu)02:23 [EDIT]

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銀行の選び方 2007年09月12日(Wed) 02:11

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