FC2ブログ

始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

醜態(15)

 浅見が勤めている店は有限会社が経営していることになっている。この会社は種類の異なる飲食店を何店舗か経営していた。浅見はその腕を見込まれて売上げの伸びない店舗に店長として配属される。従っていつまでも同じ店舗に居続けるとは限らないのだが、今回のところは結構長く勤務している方らしい。勤務の終了時間はだいたい夜の十一時半くらいである。
 店の売上げの数パーセントが店長の給料に上乗せされる仕組みになっているという話だった。
 それにしても浅見は裏社会からよく足を洗ったものだとイチコは思う。一見したところ堅気でいる方が似合っている男ではあるが、足を洗っても普通は「俺はこれしか出来ない」と宮下が言ったように、元の鞘かそれにちかいところに納まることが多い。それほど後の生活に苦しむのが普通なのである。
 「あんた、お店の方はどうなの? 流行ってる? お給料少しは上がった?」
 不二子さんはよく浅見にそう訊ねた。
 「そんなに急に上がるわけないでしょ」
 浅見はプイとする。
 「だってあんた、あたしあんたに協力してお客を連れて行ってあげてるじゃない? 売上げ伸びてるはずよ」
 「だから貰えるものが五パーから三パーに落ちたの。あの場所景気悪いから。三パーなんて知れてるよ」
 これはよく繰り返された会話だった。
 「あんた、あの子、どう思う?」
 浅見がいないとき不二子さんがそうイチコに訊ねたことがある。彼女がことさらに自分と浅見の距離を近づけようとしていると感じ始めていたイチコは、その腹を浅見に自分が使った分だけでも払わせてやろうという魂胆だと見た。イチコに浅見の身柄を預けておけばその背後には宮下という守護神が付いている。宮下に知られたくない浅見は必死で払うと思ったのであろう。
 「うん? のらりくらりって感じかな」
 何も不思議なことではない。月日が経つとそうなる、とイチコは思っている。
 イチコの回答に同席していた不二子さんの息子はさもありなんとばかりに、
 「あいつ、うちのおかんが優しいのをいいことにあんなことを言ってるんだ。おばちゃん、何とか言ってやってよ」
 その横で「あの子、うそばっかり」と彼女はつぶやく。
 「この子がね、あの子のこと第二の松木だって言うのよ、あんた。あたしもそう思うわ。最近のあの子見てるとそういう気がする」
 不二子さんは浅見が遠慮なく高いものを注文して食べるのでいつも会計が高くつくとこぼす。
 「あたしと二人で会うときなんか、デザートまで注文して食べるのよ。自分で払わないくせに。あたし、あれに奢ってもらったことなんか一度もないわ」
 聞いていたイチコは声を上げて笑った。
 「あんた、あたし、あんたのために今までずっとあの子の守りをして来たのよ」
 「何言ってる? あれはあなたの息子じゃないの? してやり過ぎるから変な男になるのさ」
 イチコは冷たく突き放した。そもそも七年のあのとき嘘を突いてまで浅見に肩入れしていたのは誰だ、と言えるものなら言いたい。正直に言ってくれていればおそらく防ぐことは出来たはずだと、まだどこかに残っているに違いない借金に対してイチコは思った。
 イチコがこのまま何もしなければ浅見に対する請求権は消滅する。浅見がひそかにそれを願っていることはイチコも早くから勘付いていた。
 早くからと言うのは松木事件のために集まっていた頃からである。その頃不二子さんが持っていた初心者向けの法律書を見た浅見が、同じものを持っていると言ったことで勘付いた。不二子さんが持っていたものは訴訟のためにイチコが初心者向けをわざわざ買い求めて彼女に与えたものである。
 不二子さんが浅見のことをいくら悪く言って来ようが、また浅見が何を考えていようがイチコは気にならなかった。借用証書の有無から言えば浅見に請求するのが正解であるが、そんな気は毛頭ないのである。彼女の息子が過去の自分の不義理を棚に上げていけしゃあしゃあと口を挟むことも気に食わなかった。この子は母親が過去自分に対してして来たことをどこまで知っているのだろうと思った。
 この子が冬休みを終えて県外に出たら不二子さんに公正証書の話をしようとイチコは決めていた。
 しかし、浅見の行儀が目に余ることをいくら話してもあまり同調しないイチコに物足りなさを覚えたのか、数日後、不二子さんは強行策を取って来る。

 
 
FC2 Blog Ranking
ブログランキング・にほんブログ村へ
 
 
 
 
 
 
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。