始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(20)

 バッグから携帯を取り出したイチコは窓を確認した。不二子さんからである。
 「ちょっといいですか?」
 先生に断ると受信ボタンを押す。
 「あんた、わたし」
 またいきなりである。
 「なに? 今先生にお願いして細かい詰めをしてるところだから。三枚でお願いしてるからね」
 ただの現況報告だった。イチコは彼女がそれを聞きたがっているのだとばかり思ったのである。
 しかし、そうではなかった。
 「あんた、なんで三枚なのよ」
 彼女は声を荒げて言った。
 イチコは意味が分からない。この場合、どう見ても三枚である。
 「どういう意味?」
 「三枚なんかにしたら、あんた、あの子が払わないじゃない。一本化にして、一本化に」
 「一本化? ああ、それはむり。そんなことは証書を作ってからでないと出来ない」
 「なんでできないのよ」
 「時効が成立してるからよ」
 「なんでよ。時効の成立は関係ないって言ってたじゃない、あんた、一本化。あの子、あたしには絶対払わないんだから。あたし最近それがよく分かるのよ。だからあんたが持ってることにしてって。先生に一本化で頼んでみてよ」
 彼女が喋っている間にイチコは先生に目配せをして事務所の外に出た。
 彼女の言っていることは、明らかに違法であり、到底不可能なことなのである。
 「何むちゃ言ってるの。時効の成立している債務を認めさせるのが公正証書なんだよ。浅見に認めさせてからでないと動かすことはできない」
 「何言ってんのよ、そんなことしたらあの子が判を突かないじゃない。絶対一本化よ、一本化にして。もう一度先生に頼んでみてよ」
 「そんなことはできない。あなた、それって浅見を騙すことになるんだよ。一種の詐欺だ」
 「だって、あんた。あの子」
 「そんなに言うのなら、ここに来て自分で頼んだらどう?」
 「あんたあ」
 彼女はまだ食い下がって来そうな様子だったが、イチコは話を全部聞くことなく電話を切った。
 昨夜ファミレスでしおらしく考え込んでいたのはこれだったのか、と思い当たったイチコは気分が悪かった。出来もしないが、たとえ出来たとしてもイチコは一本化なぞにする気はなかった。
   
 イチコと浅見、イチコと不二子、不二子と浅見。この三者三様の債権者と債務者の関係は不二子が外れる事で、イチコと浅見に絞ることができる。つまり不二子がイチコに支払う分も浅見に払わせるということである。不二子さんが言う「一本化」とはこれ以外には考えられなかった。これを債権譲渡というのだが、いきなりイチコと浅見の関係で公正証書を作るということは、債務消滅の取得時効を援用することが可能な浅見をだますことになる。
 また債権譲渡するには不二子から浅見に対して、イチコに債権譲渡した旨を通知する必要がある。その通知の書面も確定日付のあるものでなければ意味はないのである。
 いつ通知したことにするのか、しかも請求権の時効が成立している債権を譲渡して何になるのか。
 どうしてもしろと言うことは元の契約日を改ざんしろと言うことにしかならないのである。
 これを先生にしてくれとはイチコは言えなかった。弁護士の森田のところでよくしてもらったからといって、こちらでも都合よくしてもらえると思っているのだとしたら、とんでもない勘違いだと言わなければならない。
 松木の場合とは明らかに状況が違うのである。森田のように手を引くとしても、改ざんが浅見にばれることは必至だった。そうなれば先生の免許が剥奪されることも考えられた。
 再び事務所のドアを開けたイチコは、「不二子と浅見」のメモを引き上げて持って帰る気になっていた。


 <いつも訪問して下さっている皆様へ>
 このあたりから法律がからみ、ややこしくなってまいります。
 逆に何も知らなかった不二子が少しずつずる賢くなっていく過程とも言えますが。
 できる限り分かりやすく表現していきたいとは存じておりますが、至らない点も頻繁に出て来るかと存じます。
 その節には、どうぞご指摘下さいますようよろしくお願い申し上げます。
 
 
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コメント


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奈緒さまへ

 おっ、進みましたね。公正証書のところですね。
 この説明がすごく難しいのです。後半もう一度出て来る予定なのですが、また苦しみそう。出来れば説明の箇所、感想をお願いしたいです。
 不二子、このあたりからスゴイですね。汚いところを丸出しにしてイチコを怒らせます。
 どちらが正論なのか、世に問いたいくらいです(笑)
 一話が長いので、ゆるりと読んでください(笑)
 いつもありがとうです。

紗羅の木 | URL | 2007年09月23日(Sun)03:54 [EDIT]

うーん。

このお話まで、段々イチコが不二子にたいして、許し(あきらめ)に近い感じだったのに、
また、再燃しそうな感じですね。
狡猾さを増していく不二子・・・・気になるところですが、今日はここまで。
 応援ポチット!!

奈緒 | URL | 2007年09月23日(Sun)00:16 [EDIT]

かぎろひさまへ

 こちらこそ丁重なご訪問を頂き、ありがとうございます。
 何もとりえのないところにお越し頂き、まことに恐縮しております。だらだらと長く引っ張っておりますので、それについても恐縮の至りです。
 これからの展開を楽しみにうかがわせて頂きます。
 ありがとうございました。
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月11日(Tue)03:36 [EDIT]

はじめまして

ご訪問&コメントありがとうございました。
紗羅の木さんの物語を読みたいのですが、睡魔には勝てずプロローグで断念してしまいました。
全部を読み終えたらまたコメントしたいと思います。
なので、まずはご挨拶のみで失礼いたします。

かぎろひ | URL | 2007年09月11日(Tue)01:42 [EDIT]

おはぎ様へ

 おはぎさん、初めまして(笑) 本日のコメントの方ありがたく頂戴します。
 イチコファンと言って頂けるなんて、恐縮しきりです。宮下さん(笑)はもう少しお待ち下されば登場するそうですよ。
 曲りなりにも宮下と長い間夫婦でいたイチコが、どこまでの表現なら許せるか検討中です。ラストまでお付き合い頂ければこれに越した幸せはありません。
 いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月10日(Mon)16:32 [EDIT]

私には、法律的な知識も何もありませんが・・毎回、楽しく詠ませて頂いています。
イチコのこれからの事やお金の行方・・・不二子との関係・・
最近、話に出てきませんが・・宮下との関係など・・
イチコファンの私にとっては・・・難しい話し抜きに・・・
イチコの今後が気になります。
更新は大変だと思いますが頑張って下さい(=^_^=)
イチコファンとして、毎回、応援しています~~~~~~

おはぎ | URL | 2007年09月10日(Mon)13:17 [EDIT]

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