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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(22)

 先生が選んだのは改ざんではなく、「代位弁済」だった。
 イチコが浅見の保証人である不二子に代わって弁済したという、代位弁済による債権譲渡である。これだと当時自分に知らされなかった裏事情として浅見は納得して観念するはずだ。代位弁済による譲渡の場合も通知をするに越したことはないのであるが、非通知でも恐い宮下のヨメが相手ならば文句も言わないであろう。
 イチコの立場から言うと、「代位弁済」ならば自分が金を出したことになるのだから、「イチコ-不二子」は時効という点を除けば以前として消滅しない。消滅しないのだから、イチコは今までどおり彼女に弁済の請求もできるし、彼女との間に公正証書を作成することも可能なのである。
 「イチコ-不二子」を消滅させるためには、ごく一般的な債権譲渡(支払いに代える債権譲渡)によるしかないのだが、それでは当時を知る浅見が判をつかないという難題を突破出来ない。
 「考えましたね、先生」
 代位弁済の何たるかを知っていてもイチコには思い付かなかった。しかも「イチコ-不二子」が消滅しないのだから愉快だった。
 「あなたがわしの依頼人だからな」
 イチコの思いを見抜くかのように先生は笑った。
 自分の立場が不利にならないように考えてくれたその手腕にイチコは感謝したい気持ちである。こんなことはどこの司法書士でもやってはくれないはずである。
 しかし、浅見を騙すという点においては変わらない。騙すことはイチコの本意ではなかった。
 「先生、これ使えますよね?」
 イチコはデスクの上で重なりあっている紙片の中から「イチコ-不二子」のメモを引っ張り出した。これで公正証書を作成しようと提案したら彼女は何と言うであろう、とイチコは考える。
 「うむ、今回使ってはおらんが、そいつは大事にとっておきなさい」
 「ですね、先生。本当はわたしはべづべつで願いたかったんですけどね」
 その方が二人から回収できるだけに片がつくのも早い。
 
 債権債務の大まかな金額の内訳は、以下のとおりである。
 (一) イチコ-不二子  六百三十万
 (二) イチコ-浅 見  三 百 万
 (三) 不二子-浅 見  一千二百万
 
 (一)を保留、(三)を代位弁済したのだから(二)と合わせて債権額一千五百万の公正証書になる。債権者イチコ、債務者浅見竜也、毎月月末五万ずつ三百回払い、金利年十パーセントがおもな約定であり、支払い年数は二十五年にも及ぶ。この場合法的には相殺は起こらない。相殺どころか、イチコは不二子に(一)の請求をしても違法ではない。
 もっとも本人同士で相殺することは可能である。相殺すれば差額五百七十万が不二子さんの手に入る。手に入るといっても全額回収してからの話である。
 しかし一千五百万の債務額は一個人が負うには危険過ぎた。二十五年という長い年月には何があるかわからない。自己破産でもされかねない金額である。(一)の証書も作成しておく方が無難である。
 自分ならば(一)の証書作成に応じるのだが、とイチコは思う。不義理をした身分でこれで済ませるなどという失礼なことは普通は出来ない。ちゃんと書類という形にして残すことは相手に対する誠意でもあるのだ。
 同じ浅見を騙す協力を要請するなら、こちらの方がはるかに筋が通っている。
 ちなみに(三)を支払いに代える債権譲渡とした場合だと、(一)と(三)を相殺するので五百七十万の差額が発生することは同じだが、その差額の債権は当然のように不二子からイチコに移動することはない。不二子は五百七十万を自力で浅見から取り立てることになる。イチコの債権額は端から九百三十万のままなのだ。
 
 委任状には(二)と(三)の案件を別々に分けて記載する。
 (三)の代位弁済に到った経緯を記す文面に先生は不二子さんの名前を挿入した。
 「委任状は今日の夕方には上げておくから取りに来なさい。いいか、 あなたの立場は保証協会だからな? そこのところ、ちゃんと浅見に説明できるな?」
 「大丈夫です」
 答えたものの、浅見を騙すという後ろめたさからイチコは気が進まなかったが他に方法はなかった。
 イチコはこの段階でひとつ誤算をしていた。不二子さんと言えばいつか手形を持ってイチコに付いて来た女性だと先生にも分かると思っていたのだが、先生はそんなことなどすっかり忘れていたのである。
 その誤算がなければあるいは違った形の証書になっていたかもしれないのだが、先生の方もそのことに気づいたのはずっと後になってからだった。
 
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タイムブログランキング | URL | 2007年09月12日(Wed)14:24 [EDIT]

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