始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(23)

 深夜のいつものファミレス、その入ってすぐの席にイチコは座っていた。入口から入って来る客と必ず目が合うような席である。
 時刻は午前零時を回っていた。イチコの斜め前には不二子さんと夏季休暇で帰省している彼女の息子が並んで座っている。
 「あんた、もう来るわよ、あの子。見てて、慌てて来るから。あたし、言ったの。あんた、ちゃんとしないなら宮ちゃんに言うからってヨメが言ってたわよって。だから慌てて来るって」
 不二子さんは一人喋っていた。
 イチコの報告で「一本化」が実現したことを知っている彼女はご機嫌である。
 イチコは先生から預っている大きな封筒を持っていた。中には公正証書作成のための委任状が入っている。これを浅見に説明して約定に関しての折り合いがつけば、二人揃って先生のところに行きこの委任状に著名と捺印をするのである。
 浅見は彼女の言うとおり血相を変えて店に入って来た。
 いやでもイチコと目が合う。イチコの前に来ると、
 「どうも、すみません」
 そう言いながら浅見は腰を下ろした。その隣には不二子さんがさっきから足を組んで座っている。
 「アサ、あんた遅い。何してたの?」
 「だから、今日は忙しい日なんだって。あんた、何言ってんの」
 「ちょっと、そんなことはもういいから。浅見くん、これを見て欲しんだけど」
 イチコは小競り合いをする二人の間に割り込むようにして浅見に委任状を渡した。受け取ってそれに目を落とした浅見は、みるみる蒼白になった。そこに記されている債務金額がそうさせたことは明白だった。
 イチコは思わず目を逸らした。後ろめたさがこみ上げて来る。
 「これ、あの・・・」
 浅見はイチコと委任状を交互に見た。怒れ、とイチコは思った。浅見がノーと言ってくれるなら、イチコは最初から望んでいたように二人から回収するように話をつけるだけだった。
 「あんた、わたし、あの頃お金がなくて払えなかったからこの人に全部抱いてもらったのよ」
 不二子さんは横から浅見を覗き込むようにして言う。イチコがわざわざ説明するまでもないほど、「保証協会」の説明になっていた。
 「そんな、こんな長い間。怒られるのも無理ないです。こんな大金、俺、今まで何にも知らなくて。本当にすみませんでした」
 浅見はテーブルに頭を擦りつけるように深々と頭を下げた。
 「あんた、あたし、おかげで何にもなくなっちゃったのよ。この人にしてもらった指輪だって。佳奈ちゃんには話してあるけど、やぁすく売り飛ばしちゃった。なのにあんたったら、のらりくらりして」
 不二子さんは言いながら背もたれに寄りかかり、イチコをちらっと見た。
 「あんたが悪いんでしょうが、一言も言わないで。今まで黙ってて」
 浅見は不二子さんの方に体を向けると、牙を剥くように怒鳴る。
 イチコは目の前の光景に腹が立って来た。この場にかこつけてサファイアのことを報告する彼女の根性が気に食わない。
 「もうやめろって。何やってんの、ばか」
 「ほれ、あんた」
 不二子さんは浅見からイチコへとあごをしゃくった。
 浅見は観念したかのようにイチコをまっすぐ見て来た。もはやこの男からノーを聞くことはなさそうである。イチコも観念するしかなかった。
 「そこに書いてある支払い条件はそれでいいの? 保証人は?」
 「いえ、誰も」
 「うん、だと思った。先生にもそれは伝えてあるから。あとは? 月五万はどう? あなた一人身なんだから、万が一のときのものはキープしておかなきゃ駄目なんだよ。どうなの? 長い期間なんだからよく考えて」
 七年当時多額の借金をした浅見は、親からも勘当されていたのである。
 「いや、もうこれでいいです。金利の方もこれで。こんなに安くしてもらって、俺、これは俺の責任ですので。ちゃんと磨かせて頂きます」
 よほど宮下が恐いのか、ただ単に男の覚悟の現れなのか、浅見はイチコが勝手に決めた約定にも同意を示した。 
 
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