始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(29)

 宮下が頼んで来た金のことは電話番の男には聞けなかった。過去に再三若い者に現金を持ち逃げされている宮下が用心して内緒にしている可能性をイチコは考えたのだ。
 警察に見つかっていれば今頃は押収されているであろう。しかし、イチコは宮下がそんなドジを踏む男だとは思っていない。必ずどこかに隠してあるはずだと思っていた。
 
 刑事がイチコの家にやって来たのは、宮下の連行から一週間後だった。
 こういうことは朝一が恒例になっているのか、やって来た時間は息子の登校時間よりも早かった。
 家宅捜査があまりに遅いので、ひょっとしたらここには来ないかもしれないとイチコが思っていた矢先である。宮下と別れたと言う情報を警察に流してから十年近い歳月が流れていた。
 ノックの音で来訪者が誰であるのかを悟ったイチコは落ち着いて立ち上がった。何度も遭遇しているシーンなので慌てる必要もなかったのである。
 前回の家宅捜査で印鑑でも押収して帰る事を知ったイチコは、宮下の印鑑を息子に持たせていた。それ以外押収に値するようなものは何もありはしない。刑事が未成年の息子のものに手をつける事はまずあり得ないと思っていた。それでも、
 「いい?」
 横で登校の支度をしている息子たちにイチコは確認を取った。
 「うん、いいよ」
 ブツを持たされている長男が答える。
 二人が奥の部屋に引っ込んだのを見届けてからイチコは玄関に向かった。
 ドアを開けると年長の刑事がすばやく押し入って来た。令状をかざしながら、
 「警察ですが。宮下さんは・・・・ご存知ですよね?」
 「ええ」
 イチコは困惑の表情を作る。
 「ちょっと、よろしいですか?」
 「なんです?」
 「朝早くから申し訳ないです」
 「・・・・どうぞ」
 そのとたん、後ろに控えていた者が玄関に滑り込んで来る。
 人数は全部で三人。珍しく若い女性が一人メンバーに加わっていた。彼らは靴を脱ぐと、まるで慣れきった我が家のように奥に足を進める。
 「どこかに大金の入った通帳はないか? 五千万くらいの」
 年長の刑事が大きくはないが、はっきりと声を張った。
 居間の座卓まで来ると立ち止まり、
 「大事なものはいつもどこに? そこを見せて頂きましょうか」
 「奥の金庫です。少々お待ちを」
 イチコは刑事たちを制して、奥に続くドアをノックした。金庫は息子たちがいる部屋の一番大きい押入れに設置してあるのだ。
 ドアを細く開けて顔を覗かせた長男は、刑事を確認すると彼ら招き入れるかのように大きくドアを開いた。次男はというと、勉強机に付いて身構えるように入口を見ていた。
 年長の刑事は何を思ったか、ひとりだけ早々と居間の座卓で胡坐をかいて座り込んだ。
 「どうぞ」
 鍵を手にして息子たちの部屋に入ったイチコは、付いて来た二人の刑事の前で金庫を開けて見せる。
 「大丈夫ですかね、息子さんたち?」
 男の刑事が訊ねた。
 「大丈夫です。父親のことは知ってますから」
 そう答えて居間に戻って来たイチコに今度は年長の刑事が訊いて来た。
 「別れた理由は何だったんですか?」
 「え?」
 「別れてからもうだいぶなるでしょう? 生活費は宮下が出していると本人から聞いとりますが?」
 「ええ、そうですが?」
 「何で別れたんです?」
 刑事の差し向かいに座ったイチコは、答えを迷ったあげく、
 「あれが女好きで遊ぶばかりするからです」
 別れたことを疑われているのならば、宮下をボロクソに言っておけばいい。そのためには手っ取り早いセリフだった。
 「はっ、確かに宮下さんは女にはもてるんでしょうがね。しかしあんなどえらい男」
 刑事の口調は唾でも吐き捨てるかのように、いまいましげだった。
 
 
 
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