始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

醜態(33)

 「こらぁ。おまえ、まだあのババアと付き合っとんか」
 携帯に連絡を入れてから何日も経たないうちに、イチコは電話で宮下に怒鳴り込まれた。応答に出るといきなりこの調子だったのである。あまりの豹変振りにイチコは最初面食らった。
 「な、なに、どうしたの?」
 「おお、こらぁ。あのババアにオレは売られたんやねえか。おまえはぁ、言うとったやろうが」
 「覚えてるよ」
 イチコはわざとゆっくり応えた。
 「お? あれが調書を書いた、言うとるやないか」
 「覚えてる。あなた、あのときそう言ってたじゃない?」
 まくし立てていた宮下はここで一息つくと、
 「あの男のことだってそうや。あれが利息を負けろ負けろ言いやがるから、仕方ねえからあれの利息はあの男からもろうたんやないか。オレは二重取りなんかしてえへんぞ」
 「あの男って?」
 あの男は浅見で間違いないのだが、イチコは衝撃を受けながらもとぼけた。
 衝撃とは不二子さんが宮下から金を借りていたらしきことである。ひょっとして夫婦間で金を回されていたことになるのか。それは声に出せない衝撃だった。
 「お? あの男言うたらあの男や。そんな男がおった、言うことや」
 「ああ、そう? よく分からないけど」
 このあと宮下はさらにイチコを不快にさせることを言った。
 「あれだきゃあ、オレはあれのおかげで大損こいたことがあるんや。ねえもんは払えんのや抜かしやがって。あんた、わたしこの男に貸しとるからそっちから貰ろうてや言いやがったんや」
 現金の代わりに人間をあてがう。イチコに向けて来た手口とそっくりである。
 その男と交渉を持った宮下が回収できたのはせいぜい債務額の半分といったところだったという。
 話を聞いているうちに、いやらしく汚れたどす黒い影が体全体にのしかかって来る、イチコはそんな感触を味わった。

 宮下がなぜ今頃になって浅見のことを自分に打ち明ける気になったのか、それが不思議といえば不思議であるはずなのだが、このときのイチコはそんなことにまで気が回らなかった。
 この件に関してはそれらしき話を浅見本人からも聞いていたイチコである。そのため宮下の言っていることに信憑性を見い出し疑問にも思わなかったのである。
 「おれ毎月五万ずつ八年間通ったんですけど、宮下さん、おまえからは利息は取れんなって言ってくれました」
 浅見はイチコにそう言った。
 最後の支払い期日、宮下が支払いを終えた浅見に向けて贈ったことばがある。
 「アサよ。真面目に働けよ」
 「あれがそんな恥ずかしいことを言ったの?」
 浅見から聞かされたときイチコは思わず吹いてしまったのだが、宮下からも話を聞いた今は、宮下らしい一面が出ているように思う。
 すなわち不二子さんの利息を上乗せして浅見の利息を棒引きするということは、彼女の利息がかなり大きかったということになる。宮下がうまく両者を天秤にかけたに違いなかった。債権額の操作も、何件かの債権を一手に引き受けていたのだから、わけなくできたはずである。
 「おれ、宮下さんには感謝してます」
 浅見のこのことばが半分は社交辞令だとしても、裏社会で大金を掴み損ねた彼は一般人として毎日働くことを選んだのだ。
 宮下の事件でどこかに紛れていた浅見に対する罪悪感と不二子さんに対する嫌悪感がイチコの胸中に蘇って来ていた。
 
 


FC2 Blog Ranking
ブログランキング・にほんブログ村へ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 
奈緒さまへ

 奈緒さんいらっしゃい。
 おっ、とうとう追いつかれちゃいましたね。
 不二子の過去は謎が多いですね。妙ちきりんな嘘ばかりつくので、すぐには掴み切れない。同じ嘘なら真っ赤な嘘の方が可愛いですよね。
 奈緒さん、優しくしてね~(笑)
 いつもありがとう、です。

紗羅の木 | URL | 2007年09月26日(Wed)03:43 [EDIT]

ということは

イチコだけではなく宮下からも不二子はお金を借りていた。
という疑いがでてきたんですね。

もしかしたら、電話の内容から、またお金を借りに宮下のところに不二子がでむいたのかも?

告ぐ機が気になりますが今日はここまで^^

応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年09月25日(Tue)23:50 [EDIT]

ぬこ&えふぃ様へ

 とても嬉しいお言葉ありがとうございます。
 こんなに早く読んで頂けるとは思っておりませんでしたので、感激しております。
 自分は悪くなくても火の粉がふりかかるというケースは家族、もしくは家族でなくても人間関係があれば遭遇しないとは言い切れないですよね。
 絶対にあきらめずに戦って下さい(笑)
 わたしは読書をあまりするほうではありませんので、宮部みゆきは名前だけしか知りませんが、今度みつけたらぜひ読んでみたいと思います。「火車」ってタイトルからやばそうですね。
 ぬこさん、ほんとうにありがとう、です。感謝してます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月24日(Mon)01:10 [EDIT]

紗羅の木さんへ

プロローグから醜態へ至るまで一気に読みました。
まず他人事ではない自分でも経験するかもしれない問題もあるわけで、もしそうなった場合、自分は戦えるのかという戒めとあり方に共感しました。
宮部みゆきの火車に近いなーと思いつつ、もっとリアルな現実的に迫る金銭的重圧がひしひしとのしかかってきます。
イチコ、不二子、の人間関係は恐ろしいほど象徴的な何かを胸のうちに思い起こさせます。

ぬこ | URL | 2007年09月23日(Sun)23:33 [EDIT]

まぁさ様へ

 こちらこそありがとうございます。
 名前に由来はないです。いろいろ入れてみたところ、やっと通ったのでこの名前に落ち着いたというところでしょうか(笑)
 平家物語を学習しているころは、遊んでばかりでした。おかげでさわりの部分しか知らないというおバカ振りです。もう少し学習しておけばよかったと思う今日このごろです。
 ぬけているせいか、遠回りばかりしているようです。
 ご訪問とコメント、ほんとうにありがとうございました。改めてご挨拶に伺わせて頂きたいと思います。
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月23日(Sun)16:27 [EDIT]

おはようございます。

訪問ありがとうございました。
名前の由来は平家物語の沙羅双樹でしょうか?
名前と共に奥の深いサイトですね。
また訪問させていただきます。

まぁさ | URL | 2007年09月23日(Sun)11:54 [EDIT]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。