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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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醜態(36)

 不二子さんからの電話は、たかがクリスマスパーティーの誘いという、シーズンに合ったごくありきたりのものだった。しかし、彼女に対しては憎悪の気持ちしかないイチコは、集まるメンバーを聞かされただけでぞっとした。 
 メンバーは佳奈ちゃんと浅見、
 「それにあんたとあたしよ。あの子がね、これからもお世話になるからってケーキを予約してるんだって。みんなでそれつついてワインでも飲もうよ。場所はね、あの子の部屋。あの子、それでいいって言ってくれたから」
 不二子さんは楽しそうに言ったが、イチコは喉の奥が引きつるようだった。
 「ああ、悪いけどその日は行かれない。浅見には好きな酒でも買って届けておくから」
 「でもあんた、あの子がせっかく」
 「たしか、甘口だったよね。普段、缶チューハイを飲んでるんだったかな?」 
 「そうだけど」
 「近いうちにあれの店に持って行くから。じゃ」
 後のことばを聞かなくていいようにイチコは素早く電話を切った。
 仕事を終えると近所の酒屋に頼んでケーキ代に見合うものを用意してもらった。そのあともう一軒、麺の専門店に寄り日保ちするように加工された日本そばを買った。これはいつか新世紀梨を不二子さん経由で届けてくれた佳奈ちゃんへの御礼のためである。

 駅の裏口に車を回し、片側三車線の広い道路を真っ直ぐ西に向けて走ると浅見の店がある。あたりには農耕地も点在しているのだが、これから開発が予定されている、商売人にとっては楽しみな区域である。
 久し振りにこの方面に来たイチコは閉店時間を過ぎているため看板を見落としそうになり慌てた。きつめにブレーキを踏み、後続車がいないのをいいことにバックをして店の駐車場に突っ込む。
 店の中はまだ明かりが点っていた。浅見はまだ厨房で片付けをしているはずである。
 薄暗がりの中で浅見の車を見つけるとその横に止め、携帯で浅見を呼んだ。電話はすぐ通じた。
 「あっ、ご苦労様です」
 「浅見くん? 駐車場にいるんだけど、いま大丈夫ですか?」
 「あっ、すぐ行きます」
 そう言うが早いか飛び出して来た浅見は、サイドをずらしているイチコの車の横でぴたりと止まった。
 「あのね、申し訳ないけどケーキは気持ちだけ頂いておくから。ありがとうね。で、これね」
 イチコは先に酒屋が用意してくれたやけに重い袋を浅見に渡した。
 「それから、佳奈ちゃんにこれを渡しておいてくれないかな? 大丈夫、クリスマス過ぎても腐らないものだから」
 「佳奈ちゃん? えっ」
 浅見は手渡されるまま受け取ってしまった物体を呆然と見つめた。
 「彼女も来るって聞いてるけど?」
 「ああっ。そ、そうです」
 「日保ちするものを選んでるから心配しないで」
 「わっかりました」
 浅見はこのときは威勢のよい返事をして聞かせたものの、翌日にはその荷物は不二子さんに渡っていた。
 「あんた、あの子から今受け取って来たのよ。今わたし、佳奈ちゃんとこにいるの」
 不二子さんは電話でそう言ったのである。
 「えっ、日保ちするからって言ってあったんだけどな」
 「あら、そうなの。あの子が何か取りに来てくれって言うから。だからあたし」
 佳奈ちゃんと接触することを浅見が進んでするわけがなかった。やはりパーティーの企画者は浅見ではなく不二子さんだったようである。イチコが断ったのもその不信感があったからである。ケーキの予約も最初からなかったのではないか。あったとしても買うのは浅見ではなく、不二子さんなのではないだろうか。
 どこまでも手段を問わず張り付いてくる汚れきった黒い影にイチコはおびえた。
 憎悪と憤怒の入り混じった汚物がついに決壊し、イチコはあらぬ方向へと向かって行く。

 
 
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コメント


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銀河系一郎様へ

 イチコも記事が百を超えてしまいましたので、そろそろまとめようかと(笑)
 当初の予定では三ヶ月あればと計算していたのですが、かなりずれこんでしまいました。
なにせ、物語を書いたこともなければ、パソそのものからして初めての者が、えらそうにやっているわけですから、何も考えずに今に至っている次第です。
 あるのは強気だけという情けない奴ですが、皆様からいろいろ勉強させて頂こうと思っておりますので、今後ともよろしくお願い致します。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月13日(Sat)15:55 [EDIT]

もしかしてイチコの選択はそろそろおしまいなんですか?
ずーと読んでたせいか、まだまだずーと続くような気がしてきてました。不思議ですね。

リンクの件、ありがとうございました。張らせていただきました。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月13日(Sat)09:55 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。いつもありがとうございます。
 底なしのズルイ音、いいですねぇ。その言い回し。ぴったりではありませんか(笑)
銀河さんは表現もお上手なので、とても勉強させて頂いております。
 リンクの件ですが、フリーですので全然かまいませんが、このブログがいつまで生きているのか、管理人が次回作をしたためる日が来るのか、全て未定なのです。それでもよろしければしてやって下さい。その節には当方でも少しでも銀河様のお役に立てるようリンクを張らせていただきます。
 なお、イチコが終了してもしばらくは閉じるつもりはなく、このままの形であっても置いておくことになっておりますので、履歴さえ残しておいてくだされば応援させて頂きたいと思っております。
 ご連絡と応援ありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月13日(Sat)01:22 [EDIT]

ところで、こちらをリンクさせてもらっていいですか?

いつも聞こうと思ってたんですが、奈緒さまとのやりとりで「ちょっと待って」みたいなフレーズを横から拝見して、勝手はまずいかなと思ってたんですが?

銀河系一朗 | URL | 2007年10月12日(Fri)23:31 [EDIT]

このストーリーって二重の基低音が流れる音楽みたいですね。

宮下との仲が冷めてゆく音。
不二子さんの底なしのズルイ音。

イチコさんがメロディ奏でても低音の方が目立ってるような。
応援ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月12日(Fri)23:15 [EDIT]

奈緒さまへ

 何とかしてイチコを引き入れようという魂胆でしょうか?
 話の流れからすると、いくら言っても商売の資金を提供してくれないうえに、、どうも避けられているという思いから機嫌取りに出たという感じですね。
 パーティーは苦肉の策でしょうか。
 狙いは再び借金サークルの結成かな? 仲間にはなりたくありませんが。
 奈緒さん、いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月27日(Thu)02:55 [EDIT]

う~ん。

う~ん。不二子さんってまどろっこしいですね~。

典型的な、嘘をとりつくろうために嘘をつくタイプ?
それとも、大きな嘘を隠すために小さな嘘や、意味のない嘘をつくタイプ?
のどちらなんでしょうね。
後者なら、まだイチコを打ちのめすほどの大きな嘘が隠されているということになりますけど。

あんまりいじめないように・・・今日はここまで(笑)

ポチポチ

奈緒 | URL | 2007年09月26日(Wed)23:35 [EDIT]

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