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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(2)

 「それから」
 とイチコはつけ加えた。
 「あなた、あと残ってる借金、どこもうちほど大きくはないんだろうけどね。よく思い出して全部書き出してごらん。妹さんにでも相談して返済計画を立てるんだね。それでなんとか助けてもらって償って行くしかないよ」
 これが最後のつもりである。またこういうことは同時進行で行かなければ効果がない。
 不二子さんは、うん、と電話の向こうで頷いた。分かっているのか、いないのか、分からないような感じだった。
 「ちゃんと相談に乗ってもらえ? で、公正証書の件は連絡をちょうだい。そちらの都合に合わせるから」
 うん、という彼女の声を耳に入れたイチコは電話を切ると、大きく息を吐き出した。
 彼女に借金整理の示唆をしたのは、どこまでも他人を引きずり込んで生き抜こうとする彼女に対して、最後までイチコが残しておいた理性の欠片がさせたものだった。まさに彼女の状況は「借金地獄」であり、イチコはそのことばが口まで出掛けていたところをあえて呑み込んだ。それだけは自分が言うより、その役を弟か妹に譲った方がよいと思ったのだ。
 債権をすり替えたと単純に理解している彼女と、代位弁済でしか方法がなかったことを理解しているイチコとの間の温度差も大きい。もし裁判にでもなった場合、いくら彼女が払ったと主張しても、からくりを明かさない限り通ることはない。
 が、現実的には金の動きだけを追って行けばよいことである。その方が「二重取り」ということばが出て来るような彼女には理解しやすい。そう考えたイチコは法的解釈も極力避けた。
 金が手に入るまでの期間が長い分リスクも高くなるが、けして悪い話ではないとイチコは思っている。
 ただ、自分がした説明に対しての不安は拭えなかった。「二重取り」ということばが、自分の説明したことばを凌駕して、過剰反応を示した彼女の脳内に君臨していそうな気がするのだ。弟達になんと言って繋ぎを取ってくれるのか、問題はそこであった。
 大晦日までにあと三日という日に彼女は連絡を入れて来た。
 「あんた、弟は駄目だって。なんでわしが会ったこともない浅見とかいう男のために保証なんかするんだって言うのよ。それに会社で人の保証人にはなるなって止められてるんだって。だからわたし、妹に頼んだの。そしたら今忙しいって。あそこ孫が出来たのよ。だから年が明けるまで待って。急がないんでしょ? 妹はね、どうしてもって言うんならわたしが話を聞くしかなさそうねって言ってくれてるから」
 彼女の捕らえ方はどこかおかしかった。浅見のためにという意味がよく分からないが、イチコの悪い予感が的中していたことだけは確かなようである。
 「ああ、そう。じゃあまた連絡をちょうだい」
 説明のやり直しをする気は起きなかった。

 平成十八年。
 次男は年明けとともに次の進路である専門学校の入学を決めた。宮下との契約が終了するまでのタイムリミットはあと二年になったのである。
 「ぜったい途中でやめたりするな。後がないで」
 イチコは珍しく説教嫌いの次男を捕まえて言った。
 専門学校というところは端から見るほど楽なところではなく、たった二年間の修業期間に加えて出席率も厳しいため途中で脱落する者も珍しくはない。実は長男にもやめたがった時期があったのであるが、ようやく乗り越えたばかりだった。
 何をしていいか分からないので大学に行きたいと言っていた次男を説得して専門を薦めたのはイチコである。むろんそれに当っては宮下との話し合いの内容を説明してある。
 「やめてどこに行くんだよ、おれ」
 次男は少しふてた顔を見せたが、逆にイチコは安堵した。
 宮下の裁判の判決にも執行猶予三年が付き、次男の専門が済むまで何事もなくシャバにいてくれさえしたらイチコはたすかるという状況だった。
 結局イチコの悩みのタネとして最後まで残るのは、いつも不二子さんのことだった。
 
 
 
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コメント


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ぬこ&えふぃ様へ

 ぬこさん、ごめんなさい。うっかり削除になってしまいました。
 ほんとうに申し訳ないです。内容は覚えておりますので、今のうちにお返事書きます。
 実際頭が変になりました。
 先の話になりますが、結局イチコは不二子には勝てないんです。知識だけでは無理でした。不二子は今の裏そのもののように思います。
 ご訪問&コメント、ありがとうございました。
 ほんとうにごめんなさい、何と言っていいのか分かりませんが、申し訳ないです。

紗羅の木 | URL | 2007年09月28日(Fri)01:19 [EDIT]

奈緒さまへ

 ぜひ避けて通って下さい(笑) 
 わたし自身もあの世界に入ってなかったら、違っていたとは思うのですが。
 困ったら回してやるみたいなところがありました。むろん返すときはちゃんと色をつけて返します。いい時代のときの話ですが。
 お金くらいありがたくて怖いものはないですわ(笑)
 

紗羅の木 | URL | 2007年09月28日(Fri)00:59 [EDIT]

う~ん。

不二子さんの脳内では、自分の借金という概念が無いんでしょうね・・・・・・。
浅見のために私がお金を借りてやった。
位にしか思ってないのでしょうか・・・・・。
だから一本化したら、もう自分には借金を払う必要がない。
だから差額を払え。という思考になるんでしょうね・・・・・・。

お金の問題って・・・・・・避けて通れるなら・・・・そうしたい。
って思っちゃいました。

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奈緒 | URL | 2007年09月27日(Thu)21:27 [EDIT]

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