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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(6)

 不二子さんは浅見に何を話す気なのか、イチコはそのことも気がかりだった。自分も公正証書を巻かれることになりました、とでも言いに行くのだろうか。馬鹿みたいな話だが、それ以外に言いようはないはずだった。
 それでもなぜか胸騒ぎが静まらないイチコは、不二子さんの家に押し掛けた翌日も、夜になると車に飛び乗り浅見の店に向っていた。不二子さんのことだから早い時間に浅見を訪ねているに違いなかった。
 どう切り出すか。車を走らせながらイチコは考えた。浅見に確認したいことは二つあった。一つは公正証書のことだが、もう一つは自分が逃げ出して聞かなかったトラブルの話である。
 浅見とは半年振りの再会だ。とは言っても何度か息子を連れて来店しているので、顔は何度も見ている。話をするのが半年振りであった。公正証書の作成時からだとそろそろ一年が経つ。先の事は分からないが、今のところは毎月五万ずつきっちり振り込んで来ている浅見である。
 イチコは助手席の裏側から市販の借用証書を取り出した。支払われないことは分かっている利息だが、一年経った時点で形にして残して行くことは証書を作成したときから考えていた。借用証書を書かせたからといってそれを使って取り立てる気はないが、要するに「アメとむち」である。毎年書換えて行けば日付が時効にかかることもないだろう。最初にこの話から入ることをイチコは決めた。
 来ていることを携帯で知らせると浅見は例のごとく飛び出して来た。
 イチコがサイドをずらして助手席に座るよう合図を送ると、すばやく反対側に回り、乗り込んで来た。
 「あのね」
 と言いかけて、イチコは時間の確認をしてないことに気づく。
 「ごめん。今、大丈夫?」
 「あっ、はい。大丈夫です」
 イチコはほんの少し凄みをきかせ、
 「じゃあ、ちょっと聞くけど、利息はどうしたの。あなた、わたしはガキの使いじゃあないんだ。入れられないのなら連絡くらいしたらどうなの、え?」
 左手の甲で浅見の右頬を叩いた。軽くであるが。
 浅見はそれだけで青くなった。
 イチコは借用証書を差し出し、
 「予定より少し早いけど書いてちょうだい。印鑑はいつも車に置いてあるはずだったね?」
 「はい、すぐ取って来ます」
 浅見は吹っ飛ばされたように自分の車まで行き、帰りも走って戻った来た。怒られたことはさっさと片付けるのがよい。浅見はそれを心得ているようである。こともなげに借用証書の空白は埋まって行き、イチコに手渡された。
 それを受け取ったイチコは、
 「ママが来たよね? 今日」
 ここからが本題なのである。
 「え、ええ。来ましたよ」
 「なにか言ってた?」
 浅見は一瞥くれただけで何も応えなかった。その沈黙に堪えかねたイチコは、
 「あなた、最近生意気なんだって? ママがそうこぼすんだけどね」
 浅見はたちまち不快感をむき出しにした。
 「あのひとは自分と自分の息子さえよけりゃそれでいんでしょ? そうやって人を裏切るんです」
 先刻とはあまりの変わり様にイチコは驚いた。
 「何かあった?」
 「いや、別にいいです。宮下さんに言っても始まりませんから。どうせ俺なんか宮下さんに殺されても仕方ないんです」
 浅見はしょぼくれたように言った。
 「何言ってる? そんなことしてなんの得があるの。保険証券はきちんと払ってさえ来れば返してあげるよ」
 大げさなことを言う奴だと、このときのイチコは笑って素通りした。
 「それより、さっきの話を聞かせてもらいましょうか? 時間が掛かる話なのかな?」
 「そんなでもないですけど、今すぐには」
 「そう。なら、それは今度聞かせて頂くから時間を取ってくれる? あなたの休みの日でいいよ。合わせるから」
 浅見はバイトが一人やめたため忙しいのですぐには休みが取れないと言う。
 「じゃあ、休みが分かったら連絡をちょうだい。で、今日のママの話は? 知る限りでは公正証書の話だったはずなんだけどね」
 「ええ、そうでした。たしかにそのとおりです」
 浅見はやけに言い渋った。
 普通なら言い渋るような話ではないはずである。やはり不二子さんが何か変な事を言ったに違いなかった。
 
 
 
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コメント


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奈緒さまへ

 そろそろラストスパートをかけるときが来たようです。
 ここで浅見にひと働きしてもらって、最後に宮下を回収して来ようと思ってます。
 ここが踏ん張りどころで、浅見がからんだ分、描写が難しい。更新が滞りそうな予感がしてます。奈緒さん、眠っていたら起こしに来て下さいね(笑)
 応援、いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月01日(Mon)02:52 [EDIT]

う~ん。

なんて言ったのか・・・・・・。
相手が不二子さんだけに、自分にはまったく非がないように言ったのだけはわかります。

ソコがいつも混乱を招くんですよね。
それは浅見も承知の沙汰でしょうけど。

続きが気になりつつも。。。。応援ポチット!!

奈緒 | URL | 2007年09月30日(Sun)23:59 [EDIT]

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