始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(22)

 あさましく、醜い女。
 イチコの目に映る不二子像である。
 今では知り合った頃とは別の生き物のように見える彼女だ。
 その彼女がどんな決断をしようと、今回を最後の通告にしたい。その決意を揺るぎないものにするために、イチコのことばは過激になった。その根底に借用証書がないという弱点が潜んでいたことは言うまでもない。
 どんな結果になっても宮下に話してしまおう。ここで彼女との関係を断ち切るためにも、それが最善の策だとイチコは思った。それゆえ、秘かにだが、これが最後だという覚悟をしていた。
 浅見と別れて家に帰り着いたイチコは、まずニセの債権を何通りも作り、千八百と三千の見本を仕上げた。日付と金額を適当に打ち込むだけとはいえ、ニセということが作用してか、案外根気のいる作業であった。
 浅見が三百を払い終えるのに後四年はかかる。よって支払始期は打ち合わせどおり、四年後である。毎月五万ずつ。別記として費用は浅見の負担、と付け加える。
 作業中、判決が下るのを待っているような気分だった。それはあながち錯覚ではなく、不二子さんがイチコと浅見の先行きを決める権利を有していることは確かだった。
 ファックスでの送信を済ませると、夜が明けるまでの数時間、横になった。
 
 不二子さんはイチコたちの想像どおりカンカンになって連絡を入れて来た。三千を送って来られたことが特に彼女の神経に触ったようである。なんでこれがあるのよ、と何度もわめき、しかも四年後とはどういうことか、と言う。明らかに浅見に不正を嗅ぎつけられたと思い、慌てているのだ。その反面、浅見が自ら費用を出すということに引っ掛かっている様子だった。イチコの目論みは的を得たのである。
 「それはあれに訊いてごらんよ。あれが三千を希望したから書いて送っただけだよ」
 イチコは何食わぬ顔で答えた。
 「あんた、今五万しか払ってないものが、なんで四年後には十万も払えるのよ。おかしいじゃない。あの子、なんて言ってた?」
 「だから二人で話をしてごらん。わたしに文句を言っても始まらない」
 「だったら話をするからいっしょに来てよ。二人であの子間に挟んでさ、あんたぁ、何考えてんのよって、とっちめてやろうよ」
 冗談ではない、とイチコは思った。自分の同席は浅見の芝居のさまたげにしかならない。彼には存分にやってもらわなければならないのだ。
 「自分達の公正証書だろう。間には入れない。わたしはあなたとは違うよ」
 イチコは皮肉をこめて言った。さらに、
 「ひとつだけ言ってあげるよ。あの公正証書にはあなたの名前が載ってるんだ。誰からの経由で来た債権なのか分かるようになってる」
 この情報はてきめんだった。
 初めて知ったであろう彼女はショックを隠さなかった。
 「なんでそんなところにわたしの名前が載るのよ」
 声が怒っていた。名前が載っているなんて、それで浅見に勘付かれたのか、彼女はそう思ったはずである。
 「浅見がばかだと思ってたらあかんで?」
 おびやかすように言うイチコに、彼女は不安げに訊いた。
 「あんた、あの子とどんな話をしたのよ」
 「あれが、自分で話します、そう言ってたから何も――」
 浅見と内通しているイチコは、ひやっとして応えた。

 
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コメント


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奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 なかなか債権の話が進まないので困ってますが次回くらいで終わりそうです。
 結局ラストでイッキに全部回収のような運びになりそうです。全て回収できるかどうか自信はないですが。少し、休みたいです(笑)
 いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月17日(Wed)03:49 [EDIT]

イチコのささやかなる反撃ですね。
しかし、不二子さんも何か感じずいた!?
後は浅見の芝居次第ですけど・・・・・彼も食えない男ですから・・・・・ラストにどう関わってくるのか・・・・・。
続きに期待しつつ・・・。応援ポチット


奈緒 | URL | 2007年10月16日(Tue)22:35 [EDIT]

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