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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(23)

 イチコの話を聞いた不二子さんが激しく動揺したことは確かであった。しばらく間を開けて彼女は言った。
 「あんたの九百のは? それと公正証書。それもファックスで送ってよ。ちょっとわたし、金の流れを見てみるから」
 イチコは心の中で先生に感謝した。
 「公正証書はダメだ。揉めてるのならって先生が預ってる。あれに頼め」
 不二子さんはヘラっと笑い、
 「あれがあたしに見せてくれるわけないじゃない、あんた」
 イチコは同感だった。今の浅見は徹底して気が効く男である。イチコがわざわざ知らせなくても見せたりすることはないであろう。
 この日の夕方、イチコは彼女に送信したものと同じ見本を浅見のポストに入れた。彼女がいつ浅見に接触してもいいように、一刻も早く届ける必要があったのである。店に持って行かなかったのは、万が一彼女と鉢合わせになるかもしれない可能性を考えたためである。
 後は浅見次第だった。
 
 しかし、さすがに不二子さんは手強かった。アメ付きの九百をファックス送信して以降、イチコにも浅見にも梨のつぶてだった。都合が悪くなったときの彼女の常套手段である引き伸ばし作戦がまたしても出たのである。
 何か、勘付いたのかもしれない。イチコもだが、宙ぶらりんの浅見は、もっと焦った。
 「ヤバイっすね、どうしましょうか?」
 不安げに言う浅見の様子に、イチコは思い当たる節があった。
 「あなたが連絡をくれるのを待ってるんだと思うよ。あれ以来連絡もしてないんじゃないの? いやでも連絡しないと前に進まない」
 あれ以来とは三十五万の件のことである。
 「わかりました。じゃあ、今夜にでもオレからします」
 浅見は観念したように言った。
 あの一件が二人の間に大きな確執として横たわっているのだった。浅見は折れてくれたが、これが響くことは避けられそうになかった。これだけでも相当の時間のロスだった。
 浅見が決意の連絡を入れてから間もなくのこと、不二子さんはイチコに連絡を入れて来たが、あのケチの浅見が出費することが気に食わないと言う始末であった。挙句には、そんな金があるのなら、それを取り上げて来てやろうか、などと言い、イチコをぞっとさせたものである。事態はもはや相姦図の様相を呈して来ていた。
 
 それでも浅見の思わせぶりなのらりくらり論法に、三千を書かせるなら九百と同時にやらなければ意味がない、不二子さんはそう提案して来た。ここまで言わせた浅見の粘りを誉めてやらなければならない、とイチコは思った。
 しかし、この「同時に」はくせものだったのである。
 イチコの考える「同時に」は、一人の司法書士のところで出来ないと伝えていたために、飛ばす危険性の高い浅見の逃亡対策を講じる事だと思ったのだが、まるっきり違っていたのである。
 金の流れを書くのよ、と彼女は言うのだ。
 つまり、浅見が彼女に支払う金をイチコに回す、その図式を一枚の証書にするという意味である。言っている意味はまさしく債権譲渡のことであった。どうあってもイチコを通して浅見から回収したいということである。これなら飛ばされる可能性が低いと思ったのだろうが、
 「あの子が払わないとあたし絶対払わないわよ。あの子が四年後ならあたしもそれよ」
 彼女はこれが言いたかったのである。
 それではイチコも浅見も困る。
 しかも、それをするということは今ある証書を作成した時と同じように、また不正をするということでもある。
 「時効が来てるのに出来るわけないだろうが。譲渡通知はどうするんだ」
 彼女の説明を聞いた瞬間、イチコは怒鳴った。
 これに対する彼女の返事は絶望的なものだった。
 「そんなの作ればいいじゃなぁい」
 先生の苦労は元より、ずる賢くなっただけで何も分かっていないのである。さらに彼女は言った。
 「だいたい最初のもそんなのにして欲しかったのよ、わたし。そうしないから揉めるのよ」
 イチコは呆れてものも言えなかった。
 要は三人で一枚に判子をつくのだから不正ではないということであろう。そんな公正証書があるのなら見てみたいものである、とイチコは思った。
 金が手に入るのなら手段を問わず、何でもあり。浅見が言っていたように、金を回すという、ただそれだけの考えしか彼女にはないのである。それは彼女がいかにして借金苦の荒波を泳いで来たのかを如実に語っているものでもあった。
 しかし、また不正では同じことの繰り返しである。 


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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 長々と書いてしまって・・・・ご面倒おかけしてしまいました。
 不二子が息継ぎをするとそこにいる誰かが泣くことになります(笑)
 本日はありがとうございました。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月18日(Thu)02:40 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 不二子は最強ですね。あれに勝てるのはいないと思いますよ。宮下でも勝てないかも。
 浅見なんか、あれに比べたら可愛いもんです(笑)
 いつもありがとうございます。
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月18日(Thu)01:51 [EDIT]

やっと追いつきました。

借金の流れにどっぷりと浸かり、流されながら泳いで、息継ぎだけはしていくという
通常ではあり得ない不二子の金銭感覚には、イチコもたじたじですね。
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月17日(Wed)23:54 [EDIT]

イチコの為に良かれと司法書士の先生がひねり出してくれた方法。
相手がこうもあさましい不二子であることを知っていたら、もうちょっと違う方法があったのだろうか。
そう考えてしまいますね。
果たして、イチコは不二子をギャフンと言わせることはできるのか・・・。
応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年10月17日(Wed)22:45 [EDIT]

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