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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(24)

 そもそも初っ端の「一本化」から法と常識を無視したとんちんかんな頭にやられていたのである。イチコの話を聞いた先生は少し時間をくれと言い、研究してみてはくれた。その結果、やはりできない、と数日後連絡があったのだが、さすがの先生も「詐欺だ」と怒り心頭に達する勢いであった。
 自分の依頼人に借用証書がないのだから、法律家であれば彼女のことはそういう目でしか見ないはずである。
 こんなことなら、考え抜いて「代位弁済」にする必要などなかったのである。現実と書類上の権利が合わずに苦しんで来ただけに、あの横暴さがイチコは許せなかった。
 「分かりもしないのに何であんなにでかいの」
 頭に来たイチコは翌日の夜、浅見にぶちまけた。
 「そりゃ、女王様ですもん。あの人、ほんと、何にも知らないですからね。自分のルールですよ、何もかも。態度も尊大ですしね。昔あったでしょう、ほら、株の売買で小料理屋の、何億という被害額だったじゃないですか。僕なんかあれを思い出しますもん」
 「ああ、あれも詐欺で捕まったんだったかな」
 「あれのミニですよ。もっともあの人のあの態度は母親譲りなんでしょうけどね。頭の方は知りませんけど」
 浅見のことばは知っている者だけが笑えるものである。女王様はイチコも時々連想する単語だった。
 かなわない話である。繁華街は何も知らない者がやっていける場所ではないのだ。あのバブル期でなければ、誰も相手にしなかったろう。
 「お母さんて、雀荘のだよね。昔うちの近所でしてた?」
 「えっ、知ってるんですか、あのお母さんを?」
 「知ってるよ。うちの店に買物にも来てた。ウーロン茶だな、一番よく買ってたのは。ババアの家に行ってたときにも一度会ったかな」
 イチコが遠い昔を思い出すような顔をしていると、
 「それより、そろそろ保険月ですよね?」
 ふと思い出したように浅見が言った。イチコはますます憂鬱になる。まだ十月だが、十一月は生保会社の保険月なのだ。
 「また引っ張りか」
 「だと思いますよ。何を言われるかとびくびくしてるはずですからね。僕、訊いたんですよ。二重取りって何、取り分の三百万って何って。三百はあたしが宮下さんに貸してるんだって。そんな大嘘を。二重取りのことになると、うん、よく分からんって。自分で言っておいて」
 浅見に相当突っ込まれたのだ。彼女はそんなことは言わなかったが、どおりで浅見の希望通り三千にしたはずである。
 「わたしのこともボロクソに言えばいいよ。二人してグルなんだろうって言えばいい」
 彼女が慌てていることは確かなようである。が、浅見に証書の話をしている様子がないことから、これから先、何かと理由をつけて浅見との接触を避ける可能性は十分ある。すると本題の証書の話も不正案以外はお気に召さないのだから、イチコが怒って不正案を受け付けなかった以上、絵に描いた餅で終るということである。いやな予感がした。
 「浅見くん、もし何かあってうまく行かなかった場合、今のを持って破産しろ?」
 別れ際、イチコは地下の駐車場で浅見に伝えた。
 イチコの予測が当っていれば、彼女は今の証書を守る方がマシだとしてこれにしがみつくはずである。盾になってくれるはずのイチコが相手にしないとなれば、何か別の方法を見つけて払わす方向に持って行く可能性もある。そうなったとき、あれが生きているとまずいのだ。生きている限り不正なものであっても公正証書は公正証書なのである。
 「えっ」
 浅見はあまりにも突飛だったので驚いたのだろう。そこで立ち竦んでしまった。
 「かまわないからそうしろ。約束だしね」
 「いや、おれ。ありがとうございます。たとえ破産しても、おれ、三百だけは絶対お返ししますんで。信じてやってください」
 やっと正気に戻った浅見は深々と頭を下げた。
 十月ともなればさすがに夜は寒かった。
 絶対に謝らない女、イチコは心の中でそう呟いていた。
 
 
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コメント


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奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 間違いなく完結、近しです(笑) なので最近は決めたところ以外、どのサイトさんにも遊びに行きません。
 もう一波乱の予定ですが・・・・・うまく波に乗れることを祈ってやってください。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月19日(Fri)02:13 [EDIT]

対決!!

なんだかいよいよ対決の時が近づいている雰囲気ぷんっぷんです。
浅見の自己破産は最終手段かな~って思っていたので。(勝手にw)
不二子もいよいよ年貢の納め時!?
それとも、もうひと波乱、ふた波乱あり!?
次回に期待しつつ。
応援ぽちり

奈緒 | URL | 2007年10月18日(Thu)23:20 [EDIT]

ぬこ&えふぃ様へ

 ぬこさん、こんばんは。
 今夜はいつも以上に更新に苦しんでおります。そのためお伺いするのが遅れておりますが、このお返事を書いたらお伺いしますね。
 「にっちもさっちも」久し振りに使うことばです(笑)
 逃げたり友人を頼るよりも、多額の借金は自己破産がオススメです。
 破産というと暗いイメージもありますが、昔ほど暗くはありません。逆に「再生」という意味に捉えていただきたいですね。債権者は泣きを見ることになりますが、業者はそれも商売上のリスクとして受け止めているはずですので。それにまた儲けるのですから。個人に借りた場合が一番罪です。
 いつもありがとうございます。
 PS 「火車」読み終えました。皮肉な二人の女性の運命。とても憐れでした。

紗羅の木 | URL | 2007年10月18日(Thu)23:03 [EDIT]

にっちにもさっちも行かなくなって自己破産。
身近にこんな人が一人いましたが、かなり頑張って返していました。
今思うと、一人では絶対に払えない利子だと思ったので、イチコみたいな人がバックについていたのかなぁと、知りもしないのに考えちゃいました。

N&E | URL | 2007年10月18日(Thu)21:48 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 そうですね。借用証書をきちんと書いてもらうことがまず大切です。
 あと、たとえ揉めても、揉め事の解決は司法書士のところまで、ですね。ここで解決できなければ法廷しかないですから(現在、小口の訴訟なら司法書士でも法定代理人たることができますが訴訟額は知れております) そういう意味でも、解決できるはずのものがゆがんでしまった、これは異常なケースです。
 法律家としては屈辱以外の何者でもなかったと思います。あらゆる意味で不二子のどす黒さが光ります。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月18日(Thu)18:30 [EDIT]

この小説読んでて、つくづく思います。

借金はたとえどんなに親しくても、どんなに小口でも、貸すのも借りるのもきちっと借用証書、最低でも借用と書いた領収書残さないとダメですね。勉強になります。
応援ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月18日(Thu)15:57 [EDIT]

おはぎ様へ

 おはぎさん、こんにちは。
 妖怪はよかったです。おはぎさんのコメントは、とても元気をくれます。今日も大爆笑でした。
 確かに緊迫して来てますね。作者の方も気合十分で望みたいと思っています。
 おはぎさん、いつもありがとうございます。感謝してます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月18日(Thu)11:12 [EDIT]

なんか・・話が緊迫してきましたね・・・
怖い・°・(ノД`)・°・
話の細かい内容が、わからないけれど・・
お互いの気合が文章から伝わってきます。
不二子が勝つのか?イチコが・・勝つのか???
また、また・・目が離せない展開に、明日が待ちきれない今日この頃です(´_`。)グスン
不二子・・・妖怪すぎる・・・

おはぎ | URL | 2007年10月18日(Thu)10:42 [EDIT]

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