始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(31)

 泣いたり感傷に浸っている暇はなかった。
 「家を出よう」
 居間に戻ったイチコはいきなり長男に告げた。初めて夫に憎しみを覚えた瞬間である。男を売る稼業の癖してこのざまはないであろう。
 就職も決まっている長男は心配ないが、次男はまだ卒業までに一年以上残っている。しかし、一年三ヶ月ほどである。これまで何とか親父としての面目を保ってきたのに、あと一歩なぜ踏ん張ってみせないのか。それが一番気に食わない。
 「おやじ、なんて?」
 長男は心なしか蒼い顔で訊ねた。
 「ババアには毎月事務所に持って来させろって」
 「おおっ、それはよかったじゃん」
 最初から長男はこればかりを心配していたのだ。
 「それが回収できるまで金は出さないそうよ」
 「はっ、どういう意味?」
 宮下のやり口は、不二子さんが公正証書と引き換えに三百現金をつけてくれと言ったのをイチコが断った事と同じ意味になる。
 が、養育費は別物である。それと差っ引くのは強制的な債務逃れに他ならない。宮下がヤクザである以上暴対法に抵触すると言えなくもない所業である。そんな非常識が親子でもあり、表でしか生きて来たことのない長男に理解できるわけなかった。
 イチコの説明に長男は顔色を変え、
 「きったねえ」
 向ける相手のいないその罵声は何度も繰り返された。
 浅見に害が及ぶのを避けるため最後まで知っていることを言わなかった結果であることは明白だった。宮下にしてみれば前々から邪魔になっていたので渡りに船だったに違いない。生活費を与えなければ不二子さんとつるむどころではなくなり、田舎にでも引っ込んでくれると思ったのかもしれない。
 いつもする喧嘩のように全部ばらして首根っこを押えてしまえばあんな半人前の宮下などに負けることはなかったであろう。これでは最期までイチコが預けて置いた証書にだけは手を付けなかった亡父の方がまだマシというものである。
 こんな結果を予測してなかったイチコだが、ここまで来たらよほどの事がない限り宮下の気持ちも翻ることはない。それが分かっている以上、ここにとどまることはできないのだ。
 すでに次男が部屋に入っているのを電話中に横目で確認していたイチコは、ちょっと出て来て、と部屋に向かって声を掛けた。
 いつもとは違う異常な空気をそれなりに感じていたのであろう。次男はすぐ出て来た。
 その次男に、 
 「ごめんな、あんたにも謝らないといけなくなった」
 頭を下げたイチコは、
 「ここを出る。圭ちゃんはもう帰って来ないから」
 非情な知らせに次男は顔色を変えた。
 「そんなら、おれ、学校はどうするんだよ」
 「学校だけは行かせてやるから行け。学資の方は別においてあるから大丈夫や。そのかわり、今までのような贅沢は出来ないで。ええな? それとも圭ちゃんところに行くか?」
 「いや、いい。おやじのところに行っても居場所がないやん。オメエに付いて行くわ」
 そう言うと、次男はにっと笑った。頷くことで了解の意を返したイチコは、再び携帯を取り上げた。
 時刻は真夜中の三時を回っていたが、平気である。
 「オメエ、どこに電話するつもりだよ」
 長男の非難に、
 「ババアさ」
 イチコは笑って答えた。
 

 
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コメント


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追記:奈緒さまへ

 以前の一部屋と同じくらい、という意味です。以前は荷物も多く二部屋借りていましたので(私事ですが)郊外の方が同じ値段ならよいものがあります。
 部屋代がいらないのが一番ですが。ものは考えようです。自己所有だと修繕費も要れば税金も掛かりますから。でも家を持つなら田舎がいいですよ。ただし車は必需品になります。

紗羅の木 | URL | 2007年10月26日(Fri)03:16 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 妙な事を覚えていらっしゃる(笑) たしかに実話がベースではありますが――引越し先のことはもう少し先でちょっぴり触れる予定かな。マンションです、一応。お値段は以前と同じくらい。ネットのできる環境の個室がみっつあります。駐車場代が以前の四分の一とめっぽう安いです。以前のところは一台二万円~二万五千だったので―――作中の設定ではそこまで触れないつもりです。もうお金の話はいらないでしょうから(笑)
 次回、不二子はけったいな行動に出ます。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月26日(Fri)01:44 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 不二子ギャフン、考えてはおりますが・・・・ご希望に添えるシーンになるかどうか疑問です。どちらにせよ、プロローグには帰って来ましたが、不二子がなぜこんなことになったのかという根本の謎がまだ残っております。それをそろそろ不二子が言い出すはずなのですが・・・・・。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月26日(Fri)01:31 [EDIT]

不二子の反応が気になりますね。
また、ギャースカどなるのか・・・・・それともある程度予想して、先に手を打っているか。
まあ、前者が彼女らしいかも。
どちらにせよ、素直に首を縦には振らなさそうなきもしますが。

そういえば、台風の時、実家を見に行ったというコメントがあったことから、引越し先は、もうちょっと易いアパートかマンションかしら・・・・。

それとも、一時実家にひっこしなのかしら。

応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年10月25日(Thu)23:33 [EDIT]

とうとう家を出る決心をしましたか。
母子の気持ちがひとつにまとまっているようで、よかったです。

にしても、不二子ババアをギャフンと言わせてやらないと、読者も気がすみません(笑)

銀河系一朗 | URL | 2007年10月25日(Thu)20:57 [EDIT]

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