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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(32)

 彼女には今夜中に連絡をしておかなければならない。 
 ここを出て自分たちはどこへ行くのか。当てはなかったが、それを決めるよりもこちらが先だった。
 発信ボタンを押し、ハンズフリー機能にして待っていると、何度目かのコールでやっと繋がった。眠そうな彼女の応答が聞こえてくる。
 「寝てた? あなたの債務の話だけど、そのまま聞いてくれるかな。全部圭ちゃんに話して任せてあるから。これからは圭ちゃんの事務所に払いに行ってちょうだい。わたしの言ってる意味が分かるかな?」
 イチコは無言の電話に問いかけた。が、返答がない。代わりに寝返りを打っているような声が聞こえ、しばらくするとプツッと途切れた。
 「感じわるっ」
 部屋に帰る気にもなれないでいる長男が吐き捨てた。
 それと同時に立ち上がったイチコは、クローゼットまで行き、中からレザーのジャンパーを取り出した。それを思い切りよくスウェットスーツの上から羽織る。
 「何やってんだ、オメエ」
 驚いた長男が訊くと、袖を通しながら見下ろし、
 「出掛ける。どうもババアが動く気がする。ただの勘で悪いけど付いて来て」
 湧き上がって来る怒りとともに、獲物を狙うような緊張感があった。
 「マジで? 今時間どこに行くってんだよ、あのババアが」
 「それが分かれば苦労しない。行くとしたらどこぞの反目だな。急ぐ」
 「おれ行ってもなんにもできねえぞ」
 「いや、そばにいるだけでいいから」
 「分かったよ。どうせ寝られそうにないし、行くよ」
 「悪いね」
 妙なところで勘が働いたものだが、当時の浅見の情報は彼女に聞くしかないと思っているイチコには、彼女がバカを仕出かす時が聞き出す絶好のチャンスなのだ。これまでほとんど外すことなく来れた唯一の武器とも言える己の勘をイチコは疑わなかった。
 彼女が警戒していたのは浅見の自己破産であり、債務額が大き過ぎることからまさかイチコが宮下に話を持って行くとは思ってなかったはずである。今頃は慌てふためいて、ろくな考えもなしに反目のところに駆け込む準備をしているに違いない、と考えたのだった。
 とりあえずイチコが知りたいのは、百万のことである。これの出所が分からないだろうか、と宮下と話をしているときから考えていたのだ。
 あの当時浅見個人に金を貸してくれるところなどないはずである。従って不二子さんの知らないところで借りているわけがない。うまくすればその返済も浅見本人ではなく彼女がしていた可能性もある。この一点だけでも真実である証拠が出れば、この一件、彼女は白であり、裏で糸を引いていたのは宮下ではないか、ということになる。
 支払の滞ったマスターを宮下が悪事の窓口として雇うという方法もありうるのだ。刑事のセリフではないが、金に詰まれば宮下のようにメンツを重んじるタイプは何をするか分かったものではない。その餌食になったのが浅見ということになる。
 憎らしい男になった宮下が家を出てから今までの間、何をしていたのか全て知りたいと思っているイチコは、同じくらい憎らしい彼女をとっ捕まえて吐かすことにより宮下の過去を暴く糸口を求めていた。それは同時に彼女の過去にも繋がるものである。
 しかし、慌てて乗り込んだものの、車を向かわせる方角が分からないのだからイチコも無鉄砲であった。
 発進させると同時に、
 「悪い。浅見くんに電話して」
 助手席の長男に携帯を渡した。
 「なんか、ババアの思いどおりの結果になってねえか」
 長男は宮下の仕打ちのことを愚痴りながら浅見を呼び出していた。 
 確かにそう言えなくもない。迷惑しか掛けない人間はそのもたらす結果に伴って何をやっても悪意としかとられなくなる。不二子さんは若い長男から見れば、その典型的な例だった。
 「ハンズフリーにしてて」
 イチコの言うとおりにした長男が携帯をかざす。
 運転席の方に向けられた携帯から、
 「お待たせしました、ご用件をどうぞ」
 寝起きだが、明らかに相手を認識している浅見の応答が車内に広がった。
 「浅見くん、ごめん。ちょっと訊きたいことが出来た」
 「ハイ、何でしょうか、どうぞ」
 「このあいだの反目の金融屋、なんて言ったっけ?」
 まず第一の目星はここだった。
 「木下さんのことですかね、それがどうかしたんですか」
 寝ぼけていた浅見が急に改まった口調になった。
 「ママのようすがおかしい。動きがありそうなんだよね。その前に押えるから」
 「えっ」
 浅見は思い切り飛び起きたようである。
 イチコは木下の場所を聞き出し、他の反目も聞いてみた。が、やはり一番めぼしいのは木下だと浅見は言い、
 「なんなら僕も応援に行きましょうか」
 と付け加えた。
 「いや、大丈夫。一人じゃないから。それにその場所なら先周り出来そう。何かあったら連絡を入れる」
 今夜は浅見は邪魔なのだ。
 
 

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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 不二子ババアの次は大狸! 思わず笑ってしまいました。
 ギャフンのギャもなかなか難しい相手でございます(笑)
 しわくてとても食えませんな。いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月27日(Sat)02:20 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 やはり対決は避けられない模様か(笑) 
 出資法違反。確認ありがとうございます。
 オイタはやめさせないといけませんな(笑) いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月27日(Sat)02:11 [EDIT]

イチコ、行動素早っですね。
イチコの推測が当たっているとすると、電話に起こされた、寝ていた大狸も素晴らしい速さで目を覚まして、小さな脳みそを回転させたことでしょう。
イチコ、急いで大狸を捕まえろ! 
ポチッとな。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月27日(Sat)00:11 [EDIT]

物語が、大きく動き出しましたね。
さて次回は、対決シーンなのかな。

えと、以前のお話の続き。
出資法違反で有罪が確定した場合、それ以前の証拠で、再び出資法違反を問うことは出来ないそうです。
違う法律違反で立件することは可能ですけど。
後は民事で返還請求とか、過払い請求とか、この辺りを懸念していたのかもしれませんね。
まあ、刑を終えた後再び再犯した場合は、当たり前のようにつかまります^^

応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年10月26日(Fri)23:42 [EDIT]

ぬこ&えふぃ様へ

 ぬこさん、こんばんは。
 お陰でやっとたどり着きました。正直、苦しかったです(笑)
 あと一歩、最期まで気を抜くことなく走り抜けたいと思います。
 ぬこさんの頑張っていらっしゃる様子、とても励みになっています。いつもありがとうございます。
 後で、お伺いしますね。

紗羅の木 | URL | 2007年10月26日(Fri)19:28 [EDIT]

思惑がいろいろ外れながら、やっと詰めの段階に入りましたね。
イチコの選択、最後まで見守りたいと思います。

N&E | URL | 2007年10月26日(Fri)17:58 [EDIT]

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