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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(34)

 蒼ざめた顔で立ち尽くす不二子さんには、いまや頼るところがどこにもなくなったのだ。
 木下側の話ではまた借金をしてしまったらしいが、イチコは驚きもしなければ、怒る気もなかった。そんなことをしたところで、あの三百万の話を蒸し返されるだけである。去年の暮れからジタバタして彼女が辿り着いた、ここがいわば地獄の底であった。

 愛車を駐車しておいた方角から近づいて来る長男に気付いたイチコは、掴んでいた彼女の上着を放すと、その手から車のキーを奪い取った。あんた、と口をパクつかせる彼女は無視して、長男に免許証の携帯を確認する。
 「オメエ、おれに運転しろって?」
 「そう、わたしの車。こっちはわたしが運転するから後を付いて来て。ここに路駐はまずい」
 どこかに連れて行かれると察した彼女は慌てた。
 「わたし。あんた、わたし宮ちゃんとこには行かないって言ってあるじゃない? わたし、ホントは公正証書してあげようと思ってたのよ、ねえ?」
 イチコは我に返ったかのごとく彼女を睨み、
 「うそつけ、こんなところに駆け込むような奴がそんなものを書いたりするもんか。自分がやらかしたことの意味が分かってんのか? もたもたしてないでさっさと乗れ?」
 相手方が引いてくれたからよかったものの、宮下の看板を出してしまった以上、出入りに発展してもおかしくないのだ。
 「いやよ、どこに行くのかくらい言ってくれてもいいじゃない」
 分かってないのか、あるいはわざとだったのか、猜疑心だけは丸出しである。
 「ここから一番近いファミレス」
 イチコは無愛想に答え、それを聞いた彼女は急に明るい表情になった。
 このクソババア、と思ったが、これから聞くことを聞かなければならないのだ、イチコはそんな素振りは毛ほども見せない。先刻までの高揚は次なる展開のために新たな緊張感として温存されていた。
 後続の長男の運転をミラーで気にかけながら、大型車が頻繁に行き交う夜明け近くの道路を走り、目当ての場所に車を突っ込むと、そこでまた彼女がぐずり出した。もう疲れたから家に帰ると言うのだ。
 疲れているのは分かるが、そこまで宮下を嫌うことにイチコは納得が行かない。生活費の五十万にしても彼女が言ったばかりに出すことになった、と宮下は言ったのだ。説明のつかない矛盾である。
 「圭ちゃんは呼んでないから」
 とイチコは声を掛けてみる。
 「あんた、それほんと? 嘘だったらわたし、承知しないから」
 絶望と疲労でむくんだ表情になっている彼女は、ようやく車から降りると重い足取りで店に向かった。
 店に入り、ドリンクを調達し終えたイチコは、
 「聞きたいことがある」
 不二子さんを見据えて言った。
 二人の重苦しい空気に居たたまれなくなった長男は、注文の品が来ないうちからさっさと別の席に引っ越していた。
 「よく思い出して答えて欲しい。浅見の世話をし始めたのが七年だったよね。いつもあなたが付いて行ってやってた。そのなかで百万、覚えのない金ってなかった? 使途不明金というか、そんな感覚のものだけど」
 「なに? なんの話? なんか意味があって言ってるのよね。あの子が何かしてたってこと?」
 疲れているはずの彼女の瞳に光が宿った。
 「いいから思い出せ。百万だよ」
 百万、百万、と彼女は小さな声で呟きながら、時折小首を傾げていた。多くの人間から金を引っ張り回して来たのだから、思い出すのは容易なことではない。
 イチコは待っている間に二杯めのドリンクとしてストレートのアイスティーを調達し、ついでに灰皿を二つさらって来る。
 彼女の前にひとつ置いてやり、満杯の灰皿は空いている隣のテーブルにちょこんと置いた。少し図々しいが、こうしておけばいつも勝手にウエイターが来て片付けてくれるのだ。そうして煙草に火を点けたそのとき、
 「あ、あんた、小切手で百万」
 彼女が顔を上げて言った。
 「小切手? どこから引っ張ってきた小切手?」
 彼女が嘘を吐いている可能性もある。イチコはその用心をしていた。辻褄の合わないものは即排除のつもりである。
 「あの子が社長のところから借りて来たのよ、板金屋の社長。あとで社長から聞いてびっくりしたから覚えてるのよ。わたし責任取って払ったのよ、いっぺんに払えないから何回かに分けて払ったの」
 「板金屋って、まさかあの板金屋?」
 「うん、そうよ。あの自殺したマスターのお義父さん」
 「それ、いつ頃のことかわかる?」
 「えっとね、あの子を匿ってたころよ。移転したスナック、あそこが一番安全だったから。七年だと思う」

 
 
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コメント


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奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 推理の域を出ない謎になりそうです。浅見を警察に売れば道は開けるかもですが、それをイチコがするかどうか―――。
 何にせよ宮下が一番怪しいことは否定できませんが・・・。
 次回のシーンからはイチコの心情を優先したいと思っています。が、描写に苦しんでいます。何とか更新できるように頑張ります。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月29日(Mon)16:23 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 キャバクラが一番崩せない難所ですね。いくらか不二子が情報を持っているようですが、それだけでは足りません。もう浅見を連れて警察に行くか(笑)
 この事件は謎のまま残りそうです。疑わしきは罰せず?
 いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月29日(Mon)16:10 [EDIT]

浅見の100万ココで出てきますか。
あの時確かに違和感がありましたもんね。
浅見としては、不二子を悪く言うために(イチコの信用を得るため?)出してきたんでしょうけど。
その小切手、浅見、宮下、マスターの間にいったい何があったのか・・・・・。

気になりつつも。応援ポチット!!

奈緒 | URL | 2007年10月29日(Mon)00:48 [EDIT]

浅見の話した百万と、少し雰囲気変わりますね。
まあ、大狸の話ですから、そのまま受け取ることはできませんが。

キャバクラでしたっけ、あれはイチコの知らないところで宮下が描いたんですよね?
今後、どうなるのか、注目です。
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月28日(Sun)22:17 [EDIT]

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