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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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ミスキャスト(37)

 やたらキャバクラ事件のことを聞いて来るイチコに不審を感じたのか、
 「だけどあんた、何でいまさらそんなこと聞きたがるのよ」
 彼女はむくれたような表情で質問を向けて来た。
 イチコは答えを少し躊躇した。が、いずれ知れることであると思い直し、
 「圭ちゃんと別れた。生活費はおまえが払ってくれないとこっちに来ないんでね。家を出なきゃならなくなった」
 喋っているうちにイチコの口調はきつくなっていた。
 「あんた、それって」
 「そうさ、おまえがえげつないことばかり言うからなったんだ」
 「なんでよ。あたし、宮ちゃんには言わないでって言ってあったじゃない。なのに言うからじゃない。あのひと、ほんとっ、汚いんだから。それって取り込み詐欺じゃない」
 「おまえだってやってることは似たようなもんだろうが」
 彼女は一瞬半開きのまま口の動きを停止させた。そして言ったことには、
 「あんた。頭に来るんだったらさ、宮ちゃん、訴えてやる? あたし、材料なら持ってるよ」
 いきなりこんな事を言われると思ってなかったイチコは飛びつきたいのを堪え、
 「なに、その材料って」
 「証拠じゃない」
 「なんの証拠?」
 「いやぁよ。それは秘密よ。訴えないんだったら、教えてあげない。あたしだってこれ持ってなきゃ、あんた方のおっさん、何するか分からないもの」
 彼女の口調がやけに誇らしげに響く。
 眉ひとつ上げないが、イチコはムカついていた。
 このババアに保証人になってもらってもバチは当らない。腹立ち紛れにイチコはそう思った。賃貸借契約の保証人のことである。
 窓の外は空が白んで来て冬の夜明けを告げていた。
 宮下との会話後、行く先として一番に思い当ったのは田舎だった。が、息子たちのためにも、もう少し街に居ようと決心したのである。夜が明けたら大至急物件探しをしなければならないのだ。イチコに落ち着いている暇はなかった。
 「今度は郊外で探すかな。あなた、これだけ大騒ぎを起こして公正証書も書かないんだったら、保証人になってちょうだい。あたしゃ一人っ子だから頼れる者が誰もいないんだ。迷惑は掛けない。そこは今までの付き合いで信用してもらうしかないけどね。長い期間じゃない。息子たちが社会人になればチェンジさせるから」
 今までの経過からみて理不尽なことは言っていないという自信がイチコにはあった。
 が、不二子さんはどこにそんな体力が残されていたのかというほど、いきり立ち、
 「あんた、なんで保証人があたしなのよ。そんなのって、あたし、しっかり儲けさせてやって今度は保証人って。あたし、あんたらに利用されてるだけじゃない。あんたら、勝手に喧嘩してうまく行かなくなったからって、そんなの知らないわよ。あたしのせいじゃないじゃない。元はあんたが、自分の身の保全ばっかりするからなったんじゃない」
 言いながら激しく首を横に振る。その顔は木下の事務所前で見たよりもさらに歪んで見えた。
 使い切ったはずの気力を再び奮い起こしたイチコは、手元のアイスティーを引き寄せた。氷が解けたお陰で半分くらいの分量は残っていた。場所が場所だけに一瞬のためらいはあった。が、それを彼女の顔めがけてぶちまけ、
 「わたしがいつ儲けたんだ? 言ってみろや」
 押し殺した声でイチコは訊いた。言うに事欠いた言葉は憎むべきものであったが、退路を絶たれて狂乱状態になる、その一歩手前のような気配を彼女に感じたのである。
 いきなりの顔面攻撃に驚いた彼女は、
 「だってあんたぁ」
 弱弱しく叫ぶと、薄まったティーを掛けられて醜く歪んだ顔を自分の両腕にぐちゃっと埋めてしまった。それを見たとたんイチコは肩に鉛を載せられたような疲労感に襲われた。

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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 なんのなんの、ちっともかまわないです。他ならぬ銀河様なので。お気になさらずに・・・
 大狸のその憎らしいせりふ、次回にその意味が判明します。
 狐も狸もこりごりのイチコさんです。
 実力行使は早い者勝ちですね。イチコのは、まるでヤクザ戦法ですが(笑) 
 いつもありがとうございます。
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月01日(Thu)07:48 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 証拠では、大変お世話になりました。不二子らしい証拠の解釈です。
 宮下の過去も不二子の受け持ちですな。不二子の地獄への入口がそこにあります。
 いつもありがとうございます。
  

紗羅の木 | URL | 2007年11月01日(Thu)07:38 [EDIT]

昨日はタイトルにURL入れてしまい、コメント欄汚して申し訳ありませんでした。

大狸の「あたし、しっかり儲けさせてやって」という言葉にこちらまでカチンと来ましたよ。
そしたらイチコさんもそこを捕まえて反撃。拍手。
不二子は言葉でやりあうと相当シブトイけど、実力行使には弱いとみました。
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年11月01日(Thu)00:24 [EDIT]

最後の方の取り乱し方。
不二子さんの切羽詰っている感がひしひしつたわってきます。
さて、彼女が握っている"証拠"とはいったいなんなんか。
それが、宮下の何を暴きだしてくれるのか。
まずは住み家をなんとかしないと。
応援ぽちち

奈緒 | URL | 2007年10月31日(Wed)23:57 [EDIT]

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