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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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エピローグ

 引っ越して間もなくの頃、イチコは長男の承認を得て不二子さんに最後の電話を入れた。おかげで無事引越しが完了したことを報告するためである。
 イチコが話している間、彼女は珍しくおとなしかった。不審に感じはしたが、イチコは何も訊かなかった。「それじゃ」と切ろうとしたときである。
 「あんた、あの子が」
 彼女がいきなり声を上げた。
 宮下に会わせる話を宙に浮かせたまま出て来たイチコは、思わず耳を澄ませた。
 長い沈黙のあと、彼女は今にも泣きそうな声で話し始めた。
 話の概要は、イチコが出て行った後のこと、浅見と話したところ、
 「僕は自分が使った分しか払わないよ。ママはママで払ったら?」
 浅見ににべもなくそう言われたので、イチコを呼んで公正証書のやり直しをしようと提案したが、これも浅見は蹴って逃げたということであった。
 浅見が自分で片を付けたと知ったイチコが安堵したのは言うまでもない。望んだ結果にはならなかったが、これで先生のところで眠っている公正証書を迎えに行けるというものだった。
 「あの子、やっぱりわたしには何もしてくれないじゃない。こんなことって、わたし、払い損かぁ」
 彼女は涙声で悔しそうに叫んだ。
 バブル期に場違いの裏社会と関わったばかりに筋の通らない悪知恵だけを身につけた、早とちりの女王様がそこにいた。
 「あなた、もうママであった過去のことなんて忘れろ。みんなが迷惑するから」
 イチコが言わずにずっと仕舞っておいた、とっておきのことばである。
 不二子さんは電話の奥で息を殺しているようだった。
 イチコはそれにかまわず、さらに付け加えた。
 「あの口座、あのままにしておくから。払う気があるなら一生かかって払って来い」
 彼女に何かを期待しているわけではなかった。この先、彼女にその余裕が訪れるはずもないことは分かっていた。
 ただ、けじめとして最後通告をしたまでであった。

 その後彼女から掛かって来た電話にイチコは一切出ていない。
 賃貸借契約の際、イチコの支持どおりその場で署名捺印しただけの彼女に新居を探し出せるはずもなかった。かといって職場に来ようにも引っ越すときに辞めたのだから無駄であった。
 そんなわけでそれ以来、彼女に会うことは一度もなく、イチコが望んだとおり決別は完了を迎えたのである。
 それはイチコ母子にとって新たな道への幕開けであった。
 
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