始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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巌爺さん交遊録1の1

 海は生きている、それが巌(いわお)爺さんの口癖である。
 巌は干潮になると、その日の天気さえ許せば待ってましたとばかりにお手製の道具を携え、85CCのカブにまたがってふらっと家を出る。どこに行くのかというと、片道何十キロもある海に向けて走るのだ。
 巌の居住地はいくらか開発の手が伸びて来ているものの、それは一部地域だけという片田舎である。そこから県庁所在地のある街までカブを飛ばして来る。市街地に着いたとしてもそこから巌が目指す河口までは相当の距離がある。それでも原付ではないので車と同じ波に乗って気分は河口までひとっ飛びである。河口に着くと何もかも忘れて潮風に吹かれながらシジミを採るのだ。
 巌は漁師でもないくせに永年続けて来たこの生活が気に入っている。
 もともと色白なので冬は地肌に戻るが、夏になると真っ黒に日焼けしているのはそんな生活を送っているからだった。
 採るといっても家庭の主婦がするように熊手を小型にしたような道具で掘ったりするのではない。蓋付きの塵取のような形をした網目の箱に長い柄を装着して、まるでじょれんを使うようにそのあたりの砂をかき寄せるだけである。箱の底だけは網目になっていないので、しじみだけが底に溜まって行くしくみだ。
 この道具はホームセンターでも問い合わせればあるというが、巌のそれは自らの溶接技術を生かし、廃材を集めて作ったものである。
 場所を心得ている巌に言わせると、トロ箱のひとつやふたつあっという間で、おもしろいほど採れるという。
 そんなにたくさんのシジミをどうするのかと思うが、これを待っているファンは多い。
 漁をしている間、採れたシジミはこれまた自前の網に詰め込んで潮水にさらしておく。自前の網とは、八百屋が野菜を小分けして売るために使っている赤いネットを貰って来て、その口に輪にした針金を縫い付けただけのものである。その輪の通し口に紐を通し、口を縛って使うのだ。これがけっこう耐久性があり、巌は使い勝手の良さに重宝している。そのまま河につけておけば漁をしている間に砂出しもあらかた出来ているという計算である。
 漁を終えるとシジミを引き上げ、二重にしたスーパーのレジ袋に入れてカブの前カゴに放り込む。
 小分けするのはたいてい家に帰ってからである。それを首を長くして待っているファンのところに一件ずつ配って歩くのだ。
 すべて無料サービスだが、タダだからと言ってもらい得を決め込む者は、よほどのケチでない限りいない。鮮度の良さは金を払ったからといって手に入るものではないのだ。
 そんなわけで巌はたいてい何かと引き換えにシジミを置いて帰るのだった。それが衣料品のこともあれば規格外で市場に出荷出来ない果物であることもあり、種類は多岐に渡っていた。それが狙いというわけではないが、たとえ煙草一箱でもヘビースモーカーの巌は大喜びである。これでは女房の文代も文句を言うわけがなかった。
 
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コメント


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HIRO様へ

 HIROさん、はじめまして。
 ご訪問&コメント、ありがとうございます。
 さきほどそちらのサイトに伺って参りました。本を出版されたとのこと、管理人にはまったく縁のないお話で、それだけでびっくりしてしまいました。
 それに比べて当地は横着ブログで恐縮の至りですが、読んで頂いたこと、大変嬉しく思います。
 能力が貧しいため、なかなか先に進めないでいますが、のんびり付き合って頂ければ幸いです。
 本日はありがとうございました。

紗羅の木 | URL | 2008年01月14日(Mon)02:24 [EDIT]

はじめまして 巌爺さん楽しく読ませていただきました

はじめまして
HIROといいます。小説を書くのが大好きでブログ村ランク付けで沙羅の木さんのブログにたどり着きました。
巌爺さんの人物像がよく描かれていて、シジミ取りをやってるところの描写が生き生きとしていました。
題名の巌爺さん交遊録というのも続きを読んでみたいという気持ちを強くさせます。
また続きを楽しみに読ませていただきます。

HIRO | URL | 2008年01月13日(Sun)17:29 [EDIT]

ぬこ&えふぃ様へ

 ぬこさん、こんばんは。
 お返事遅くなりました。怠けてばかりいたので、何をさせても、もたもたしてちっともはかどりません(笑)
 
 巌爺さんの話を一話完結で何話か連載してみようと思っています。腹積もりだけで、どうなるか分かりませんが。
 今回からはスローなペースで進めてみようと思っています。書いてすぐ記事を掲載すると、ろくなことがないので懲りました。とくに今回は短編のつもりなので、事後修正の難も考慮したいと思っています。作者の行き当たりばったりの性格が一番悪いのですが。
 休載日もしょっちゅうあるかもしれませんが、ゆっくりお付き合い頂ければ幸いです。
 最後になりましたが、休養中は大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。
 いつもありがとうございます。感謝してます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月17日(Sat)03:31 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 事故現場の検証、お待ちしております。
 
 今回からは、のんびりペースで行きたいと思っています。
 巌爺さんはあくまで仮題なのですが、彼にキーマンを任せようとは思っています。
 こんな生活は出来ませんよね、普通。
 でも、面白そうなので引っ張りだしてみました。巌爺さんのペースでゆっくりお付き合い頂ければ嬉しいです。
 休養中には奈緒様にも大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。ありがとうございました。感謝してます。

紗羅の木 | URL | 2007年11月17日(Sat)03:11 [EDIT]

落ち着いた滑り出しの話ではじまって、何気ない生活の一部が見えてたり、なんだかのんびりした感じがいいですね。

この話は短編?長編でしょうか?

書きはじめると止まらなくなってしまう自分も落ち着いた話が書けるといいんですけどねぇ。主人公をどこで蹴落としてやろうとか考えてるからだめなのかも(笑)

N&E | URL | 2007年11月17日(Sat)00:03 [EDIT]

お~。
新連載スタートですね。
毎日仕事に追われる身の私ですが、巌爺さんの生き方こそ本当の人間の生き方なのかな~なんて思っちゃいますよね。

ただし・・・・・ヘビースモーカーは体の毒ですよ(笑)

まあ・・・・人のことは言えませんがw

応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年11月16日(Fri)22:59 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんにちは。
 短編の名手の銀河様にそう仰られると恐縮してしまいます(笑)
 今回、歩調はゆっくりですが、お蔭様で少しずつやる気になって来たようです。お楽しみ頂けるようなお話に仕上がるかどうか、はなはだ疑問ですが、可愛くておかしな男を描いてみたくなりました。
 世界は経験上あちらが主になると思いますが、よろしければお付き合いしてやって下さい。
 いつもありがとうございます。休養中は大変お世話になりました。感謝してます。

紗羅の木 | URL | 2007年11月16日(Fri)19:00 [EDIT]

ながた たい様へ

 ながたさん、こんにちは。
 大変ご無沙汰しておりますが、お元気でしたか?
 少しずつですが、その気になって来ました。どんなお話になるか、先をあまり考えていないので仮題としたのですが、一話目がだいたい形になって来たところで踏み切ってしまいました。いつもの向こう見ずな悪い癖です(笑)
 こんな状態ですので、今回はゆっくり進めて行きたいと思っています。
 早々のご訪問、ありがとうございました。とても嬉しかったです。
 のちほどお邪魔させて頂きますので、その節にはよろしくお願い申し上げます。

紗羅の木 | URL | 2007年11月16日(Fri)18:49 [EDIT]

連載するんですか。楽しみにします。

今日は巌爺さんの職業が明らかになりましたね。
しじみですか、なんか味噌汁が食べたくなりました(笑)
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年11月16日(Fri)12:33 [EDIT]

お久しぶりです。
執筆を再開されたのですね。
もう少し休まれると思っていたのですが、大丈夫ですか?
また、ちょこちょこ顔を出しにきます。

ながた たい | URL | 2007年11月16日(Fri)07:31 [EDIT]

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