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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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巌爺さん交遊録1の2

 巌(いわお)はどこに腰を下ろすか分からない神出鬼没の爺さんでもある。
 夏のぎらつく西日の下で漁をした日のことである。
 海から上がった巌は渋滞を縫って市街地まで帰って来るとその足で銭湯につかりに行き、駅前の牛丼屋で夕食を済ませた。ここまではいつもどおりである。
 その後、シジミを洗うための水場を求めて繁華街を低速でうろつき、公園があるところまでやって来た。街並は人工的な明るさで満たされているが、日はすっかり暮れていた。
 この日のシジミを届ける予定先は市街地にいる数人の友人の家だった。できれば暗くなっても田舎の家に帰る前に届けたいと巌は思った。 
 カブにまたいだまま公園に侵入した巌は、水場を見つけるとシジミを下ろして洗い始めた。
 公園の周囲は飲み屋がズラリと並び、そのネオンの輝きと街灯の明かりに照らされた巌の手元は十分明るかった。木陰になっている隅のベンチには夏の夜らしく、十代とおぼしき若いカップルが抱き合っている。それには目もくれず小分け用の小さなビニール袋に洗ったシジミの音を確認しながら入れて行く。
 音の確認とは、生きているか死んでいるかの確認で、片方の手に掴んだシジミをもう片方の手にゆっくり落とすことによって起こるシジミどうしの音で聞き分けるのである。死んでいるものは抜けた音がするのだ、と巌は言う。ドロだけしか入っていない殻もこれによって一粒残らず排除できるという。
 巌は神経を集中させてこの作業を始めた。
 あまりにも一心不乱でしていたため、公園の横を一組のカップルが歩いていることにも気付かなかった。
 男の方はすでに相当量の酒を過ごしている様子だが、そんな素振りは見受けられない。ポケットに手を突っ込んだまま女の数歩先をさっさと歩いていた。服装といい、仕草といい一目で筋者と見分けられる風体だった。
 後を付いて歩いていた女は巌の手の動きを見て不思議に思ったのか、不意に足を止めた。何やってんだ、と振り向いて咎める男を据え置き、女は巌の方に向かった。ちっ、と舌打ちした男が後を追って来る。
 女の目的が巌爺さんだと知った男は、
 「何やっとんや、爺さん。こんなところでよぉ」
 女より先に声を掛けた。
 そのでかい声に巌はびっくりして振り返った。が、お互い初対面のはずなのに巌は男に見覚えがあった。それもそのはずで、このあたり一体の客引きの面倒を見ている逢坂(あいさか)という男だった。繁華街を歩いているところを巌はこれまでに何度も見かけていたのである。
 してみると女の方は付き合いで買ったものか、と巌は踏んだ。
 「いや、お兄さん。わしはシジミを洗わせてもらっとるんじゃ。いやいや、お兄さんに言われるまで気が付かんかったが、ここはわしのような者でも使えるんよのぉ?」
 「おお、遠慮するこたあねえやな。好きなだけ使うたらええ」
 この辺りの顔役だけあって逢坂は横柄である。
 「そうか、そりゃあ、ありがたい」
 巌爺さんは目尻一杯に皺を寄せてニッコリ笑った。その笑顔に釣られるように、
 「シジミて、どないしたんや、爺さん」 
 逢坂は言い、女といっしょに中腰になって水場を覗き込んだ。そのとたん、逢坂は目を剥き、 
 「うぐ」
 と唸った。
 その視線の先には、ほの暗い光の中で黄金色のシジミが水に洗われて輝いていた。
 

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コメント


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れむ

 れむさん、こんにちは。
 お体の方、もうよろしいのですか。さすがに寒くなりましたので、充分ご自愛下さいね。
 いつも励ましのおことばを頂き、大変嬉しく思っています。
 読者の皆様に対して誠実でありたいと願いながら、最近はどうしてよいか分からない自分であります。
 情けない管理人ですが、またお付き合い頂ければ幸いです。
 ご訪問、そして温かいコメント、感謝しています。
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月27日(Tue)15:26 [EDIT]

ご無沙汰しています。

新連載にやっと追い付きました。
体調が悪く、なかなか来られずごめんなさい。

巌爺さんさんの動きが目に浮かびます。
沙羅の木さんの文章は、読みごたえがあるので好きです。

これからも、沙羅の木さんのペースで書いていってくださいね。
足跡残して行きます。

れむ | URL | 2007年11月27日(Tue)08:44 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 更新、遅めです。次の記事、書きかけたばかりでまだ上がっておりません(笑)
 連載を始めると、どうしてもパソが気になるのですが、書かないときはあえてオフにするようにしています。そうしないと何もできない(笑)
 履歴だけ残しておいて下されば慌ててお伺いします☆
 我がままで申し訳ないです。
 いつもありがとうございます。本日はこれからお伺いします。
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月18日(Sun)09:51 [EDIT]

しじみを当てる時の上下する手の動きは、確かに公園の水場では目を惹く行為ですね^^

私も何してるんだろうと見ちゃうかも。

逢坂はしじみの見事さに目を剥いたのか、それともしじみが嫌いで目を剥いたのか。
ただ単に、飲みすぎていて中腰になったから吐きそうで「ウグ」っていったのか・・・・・・。

まあ・・・・・・考えすぎですね(笑)

なんだか、のんびりペースといいながら、もうアップされていてびっくり(笑)

応援ポチット。

奈緒 | URL | 2007年11月17日(Sat)21:42 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんにちは。
 大きいシジミは、どんなお味なのでしょう。黄色というより土色っぽくて大きいのなら何度か食しましたが、わたしは中粒が好きです。
 作中のシジミは強いて言えば黄シジミの選りすぐりという感じです。たいしたものではありません(笑)
 作者としては、小道具として使用したいがために特記事項にしてみました。
 今回は事件性、ほとんど皆無です。
 逢坂という単純を絵に描いたような極道者と、妙に頭の切れる巌爺さん、この対比を日常生活をベースに描いてみたいと思います。
 事件性がない分、更新、遅めです。ちょっと早まったかな、という感も拭えませんが、試行錯誤しながら頑張ってみます。
 いつもありがとうございます。
 
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月17日(Sat)20:54 [EDIT]

黄金色に輝き、筋モノをして唸らせたシジミとは
どんなものか?
この前、テレビで紹介されたシジミはアサリ級に
大きかったです。

女の方がなぜ巌に興味を持ったのかも気になります。
買われた途中なら相当な理由がありそう。
それともよほど逢坂がいやなのか。
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年11月17日(Sat)14:00 [EDIT]

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