始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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巌爺さん交遊録1の4

 遠のく逢坂たちの後姿を見送った巌爺さんは、作業を続けながら思い出し笑いを禁じ得なかった。逢坂という男が勝手に卑猥な勘違いをして去って行ったことがおかしくてたまらなかったのである。
 巌が時々街で遊んで帰る事は確固たる事実だが、これから訪ねて行こうとしている者たちとはそんな関係ではなかった。
 これから行くところこそ、巌にとって大切な友人たちの家であり、万が一何か困ったことが起きた場合に助けを請う場所であった。永年のつきあいを通じて得た巌の心の拠り所ともいえる。それは、片田舎から年寄りが出て来てフラフラするのだから、巌に言わせれば当然の配慮だった。黄金色のシジミは定番のものと共にその友人たちに配られるのだった。
 準備をし終えた巌は腕時計で時間の確認をした。およそ八時半。いくら親しいといっても、あまり遅くなっては失礼である。そろそろ急がねばならない時刻だった。
 巌爺さんは広げていたものをまとめてカブの前カゴに押し込み、繁華街を後にした。

 巌と別れた逢坂は、繁華街界隈にある、徒歩でも十分行ける中堅どころの休憩所に女としけこんでいた。巌爺さんの勘は見事に当っていたのである。
 この休憩所と逢坂は深いなじみである。付き合いで抱く女はほとんどここで抱いて来た。
 ものにしようと思う女なら、郊外のもっとしゃれたラブホテルに車で乗り付けてしけこむところであるが、その手の女に金をかけることはない。逢坂はそういう主義だった。
 抱くときはたいてい酒を飲んでから抱く。
 逢坂は自他ともに認める酒飲みであり女好きであるが、付き合いともなると酒でも飲まなければ抱けないということもあった。それに少々酒が入っていても女に関しては無敵だという自負もある。
 女がシャワーを使っている間に逢坂は裸になりベッドにもぐって煙草をくゆらした。
 そうして待っている間に、先刻別れたばかりの爺さんの顔が浮かんで来る。皺を刻んだそのツラが「ンフフ」と笑っていた。
 「あのジジイ」
 思わず逢坂はつぶやく。
 どこがどうというわけではないが、見透かすようにものを言うツラがすでに忘れられないものになっていた。
 「早う入れや」
 シャワーを済ませてバスローブに着替えた女のために逢坂は体をずらせて場所を空けてやる。
 枕元に置いた携帯の電源をオフにすることも忘れない。これは家にいる亜紀に対しての用心である。
 亜紀はまだ暮らし始めて日が浅いこともあり、逢坂の生活リズムがつかめていないところがあった。サラリーマンの亭主のように逢坂もきちんと定時に帰宅してメシを食うものだと思っているらしく、あまり遅いと電話を掛けて来るのだった。そこが可愛いといえば可愛いのだが、こういう場合にはかなわない。
 オフにしたことを念を入れて確認した逢坂は、横に入って来た女の体を引き寄せた。なじみになり過ぎてとっくに飽いているはずの女の匂いが鼻腔をくすぐり、性欲が頭を持ち上げて来る。
 逢坂は急かすように女のバスローブを剥ぎ、その体を貪った。
 明らかにいつもの逢坂ではなかった。女はそれにすぐ気付き、
 「なによ、乱暴にしないでよ」
 と逢坂の下でイヤイヤをした。
 「なんや、おまえ。ちと、うるせえぞ」
 女のしかめっ面に逢坂は憮然とした。
 急に抱く気が失せて来る。そうなると無敵の自負心まで揺らぎ始めて来るから不思議であった。
 女を自由にした逢坂は、
 「煙草や」
 といきなり命じた。
 女は気だるげに自分の口で火を点けて逢坂にくわえさせる。
 逢坂は仰向けになり、それを指で抜き取ると、
 「おい、もう帰ってもいいぜ」
 女の顔など見もしないで言った。
 「えっ、だって時間まだあるじゃない」
 女の声が心なしか弾んで聞こえる。それもそのはずで、この筋の男たるもの出来なかったから金返せとは言わないものである。女にとって今夜はついているのだ。
 「うるせえ、さっさと失せろ。このハナクソ」
 「ほんとにいいの、じゃあたし帰る。また呼んでね」
 女は商売っ気丸出しのことばを残して帰って行った。
 
 逢坂が覚えているのはここまでだった。この後、不覚にも殺していたはずの酔いが回って来たのか眠りこけてしまい、目覚めたときには夜が明けていたのである。
 そこで慌てて家に帰ったのだが、
 「電話したのに、なんで連絡くれないのよ」
 そう言って亜紀が差し出したみそ汁に逢坂は再び目をひん剥いた。
 その汁椀には、巌爺さんが持っていたものと同じ色のシジミが入っていたのである。昨晩の今日で逢坂が見間違うはずなかった。
 「あのジジイ」
 逢坂はそう言い掛けたが、やっとの思いでそのことばを引っ込めたのだった。(完)
 

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 ☆まことに勝手ながら、ここで数日間お休みを取らせて頂きます。
  いつもご訪問して頂いている皆様には心より御礼申し上げます。 
  案がまとまりしだい、ゆっくり掲載させて頂きたいと思っております。
  何かございましたら雑記帖の方にてお知らせ下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。
 
 
 
 
 
 
 

 
 

 
 
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コメント


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銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 予告どおり、さっそくお休み致します(笑)
 早く自分のペースを見つけないといけないですね。未だに創作は苦手です。手探り状態ですよ。
 いつもお付き合い頂いてありがとうございます。感謝してます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月21日(Wed)07:43 [EDIT]

なるほど。

逢坂にシーンが移ってどうなるのかと思っていたら
最後に家の食卓に巌爺さんのしじみが出てきた。

とてもうまいですね!
逢坂は巌に、公園、休憩所、家と連打された感じ。
ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年11月20日(Tue)19:16 [EDIT]

ぬこ&えふぃ様へ

 ぬこさん、こんばんは。
 とってもくすぐったいコメント、ありがとうございます。
いじめないで下さいな(笑)
 でも、逢坂には愛情をたっぷり注いで描きました。そういう意味では男性からのコメントとして非常に嬉しいです。
 今回のシリーズは男性が主人公なので、ご意見ご感想、とてもありがたいです☆
 いつもご訪問、ありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月20日(Tue)10:37 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 たしかに四日連チャンでしたね。でも、二十四時間以内には掲載できてませんよ。ランキングを覗かないので分かりませんが、NEWマークが落ちていることしょっちゅうではないかと思います。もう、何でも平気です(笑)
 ラストにつけたオチの責任、どこかで取らないといけませんね。何話目になるかまだ予定しておりませんが、必ず取らせて頂きます(笑)
 いつもありがとうございます。
  
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月20日(Tue)10:18 [EDIT]

沙羅の木さんは文豪だじぇー。

一こま一こまが繊細に書かれている。
一つ一つ噛んで味が出てるような感じがする。

ぬこ | URL | 2007年11月20日(Tue)00:38 [EDIT]

のんびり書くとかいいながら、ここ毎晩の更新。

沙羅の木様は筆が速いな~と関心しております。

巌爺さんと亜紀さんはどこかで繋がっているようですね。

この巌爺さんのしじみのお味噌汁は、逢坂は初めてのような描写ですから・・・・・・。
たまたま知人を介して手に入れたのか・・・・・・。

続き期待しています^^

応援ポチット

奈緒 | URL | 2007年11月19日(Mon)23:33 [EDIT]

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