始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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巌爺さん交遊録2-2

 「今日はまた、何かおもしろい話でもあったかな」
 巌はホースを丸めながら尋ねる。
 「いや、あんた、あのため池の下にある家。あそこ、ここ最近どうしたものか、女が出入りしとるらしいんじゃが、イワさん、何か聞いとるかの」
 猪下はやっと回って来た出番に身を乗り出した。
 「うん? ナカさんところかな。いいや、わしゃ何も聞いとらんの」
 ナカさんとは中田である。
 巌はなんだ、そんなことか、とは言わない。プレハブの入口を閉めて猪下のためにクーラーをかけてやる。
 「そうか、聞いとらんか。あの御仁、最近、とんと付き合いが悪うての。村の寄り合いにも出てくれん。それがいつのまにか女が出入りしとると聞いたもんで、わしゃどうしたもんか思うての」
 そう言われて巌は、他にも中田の付き合いの悪さをこぼしていた者がいることを思い出した。
 が、巌はふふと笑みを漏らし、
 「うん? イノさん、寄り合いに出んのは困りものじゃが、そりゃちょっとしたひがみよの。ナカさんはまだ六十代よ。わしらより若いんじゃよ。女の一人や二人、どうということないでな。嫁さんが死んでからだってもう三年にはなるはずよのぉ。次を貰ったってええ頃じゃとわしゃ思うてやるの」 
 「そりゃそうだのぉ。聞いたところじゃ、五十代の女らしいから、ナカさんにはちょうどええくらいかの」
 猪下は決まり悪そうに顎を撫でて笑った。
 中田は定年退職組で巌たちより三つ若く、離れたところに息子が一人いるにはいるが、現在一人暮らしであった。
 退職してからの中田は趣味である菊作りの腕を買われて、月一回、町の文化センターで開かれる園芸講習会の講師を務めている。
 その菊作りも半端ではなく、菊花展のシーズンともなると、庭先に設置してあるそれ専用の台に三本仕立てと福助作りの鉢がずらりと並び、遠目にも見事な眺めである。この中から菊花展に出展することはもちろんである。
 また台には支柱を立てて屋根の役目を果たす塩ビの波板がとりつけてある。菊は雨に当ると病気を発症しやすくなるため最大の用心を払っているのだ。もちろん消毒も定期的にしているという。いつだったか中田宅を訪ねたときに巌はそんな講釈を聞かされた覚えがある。
 中田もなかなか器用な性質で、小さな小屋ぐらいは自分で建ててしまうような男であった。むろん菊のための台も自分であつらえたという。
 そのとき巌は感心しきりで家の周りを散策したものだが、
 「イワさん、菊の苗、出来のええのが上がっとるんよ。持って帰って育ててみんか」
 帰り際中田にそう言われたのには参った。とてもではないが、中田みたいに花の守りに根を詰める気になれなかったのである。
 そんな男だから女が出来たとなると、大変な事である。そう思った巌爺さんは、
 「そっとしといてやったら、そのうち嫁さんと挨拶に回って来るかもよの」
 そう言うと、ンフフ、と笑った。
 女は間違うと怖い。が、人生に彩りを添えてくれる。巌はこれまでそう思って来た。だから今回、中田を応援してやりたい気分であった。
 「まあ、考えたら村に若い者が増えるのはありがたいことよのぉ、イワさん」
 猪下はそれ以上何も言わなかった。結局、巌にうまい具合にいさめられたのである。
 第三者の立場を無事キープした巌はそれきりこの話を忘れてしまった。
 妙なことになり始めたのはそれから数日後だった。

 猪下から中田の話を聞かされた数日後の早朝、朝食を摂りに母屋に出掛けようとしていた巌は、駐車場を見て首を傾げた。そこには普通車が一台、母屋側に寄せて行儀よく止められていたのである。中を覗き込んで見るが誰もいない。
 車種はシビックのセダンであった。プラチナのメタリック仕様で、年式も古くはなさそうである。
 女房の文代に尋ねて見たが、誰からも駐車についての断りをもらっていないという。近所の者が乗っている車ならちゃんと頭に入っているのだが、この車には覚えがなかった。
 どうしたものかと朝食を摂りながら文代と話した結果、盗難車ということも考えられるが、それならこんな目立つところに放置したりはしないであろう、ということになり、少し待ってみることにした。
 この近所に用事があって来た者が、ほんのちょっとのつもりで駐車して行くということも可能な選択肢に思えたのだった。
 
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コメント


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奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 少し早かったようです、ご訪問。ちょうど書き上げたところでした。
 深読みし過ぎですよ、逢坂のこと。
 あれに仕事を頼んだのでは、巌爺さんの値打ちがなくなるような気がします。
 たぶん、そういう関わりでは描かない予定です。
 そして、あくまで一話完結で行きたいです。休憩をはさまないと苦しいので(笑)
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年11月24日(Sat)22:03 [EDIT]

なるほど~。

なかなか難しそうな題材みたいですね~。

はたして逢坂がそれにどう、関わってくるのか。

活躍次第では、もしかしたら巌爺さんの"お得意さん"になれるかも!?(笑)

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奈緒 | URL | 2007年11月24日(Sat)21:28 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 銀河さん、こんばんは。
 いつも、負けます。絶対かないませんな(笑)
 女は端役ですが、詐欺師とはいかないまでも、男を利用するしたたかな奴に仕上がりそうです。
 惚れた弱みに付け込まれた中田という孤独な老人。巌爺さんにどう解決させようか、とラストを思案中です。
 いつもありがとうございます。
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月24日(Sat)16:14 [EDIT]

奈緒さまへ

 奈緒さん、こんばんは。
 二段構えにたいした細工はないです。巌がいつも前面に出て何かが起こるわけではない、という環境設定なだけです。
 車と女は当然のようにセットです。
 今回は少し選んだ題材がムズ過ぎたかもです。今夜の更新がはや危ぶまれてます。
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年11月24日(Sat)16:02 [EDIT]

なんですかね。
そもそもその女が怪しい詐欺女かも。

老人をターゲットに町をローラー作戦で
まわってるのかも。
巌爺さんまでころっと騙されて、電気式
マーサージ器をローンで買ってしまうとか。

銀河系一朗 | URL | 2007年11月23日(Fri)23:28 [EDIT]

なかなか巌爺さんは切れ者ですよね。

さてこの車、どうやらその中田の所に通っている女の物ということなのかしら。

いや・・・・・2段構えということは・・・・・・。

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奈緒 | URL | 2007年11月23日(Fri)22:39 [EDIT]

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