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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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台風の目(3)

 三件の店について、趣向はそれぞれ違うのだと不二子さんは説明した。所在は一等地ばかりではなかった。
 以前のスナックの立ち退き料が入ったはずだが、それだけでは開店資金がまかなえなかったのだろうか。
 名刺を見たイチコは不審に思ったが、これも呑み込んだ。
 「貸してくれるの、くれないの、どっちよ。ちゃんとしてくれないと、あんた、わたし、このままじゃ帰れないじゃない」
 不二子さんはイチコに畳み掛けた。
 「早くしてよ。わたし、下に車待たせてるのよ」
 説明をしてくれる気配もなければ、帰ってくれる気配もなかった。

 トイチは裏社会では当たり前に横行しているが、ご法度である。
 しかもイチコは金融の看板を取っているわけではない。切り取りや追い込みなどはとうてい無理である。いわば金融は素人同然だった。
 宮下も看板はおそらく他人名義で取得しているはずだった。何かあったらどうするのか。
 かといって、不二子さんが看板を取得しているとも思えない。
 とても軽い気持ちで受けられる話ではなかった。
 宮下がしのいで来てくれるものに手をつけるわけには行かないのだから、いくら宮下のシノギに貢献してくれている不二子さんであっても、イチコが回せる資金には限界もあった。
 恩義がある以上困っている時にお返しをするのも、確かに礼儀ではある。特にこちらの世界では何かといえば、品物ではなく「ゼニ」である。
 
 イチコは裏社会の住人ではあるが、それと同時に子供を持つ以上表社会の住人でもある。
 比重を言うならば、表社会の方が圧倒的に大きかったが。

 イチコは表裏一体の境界線で揺れていた。不二子さんは、そんな事などお呼びでないかのように、
 「あんた、二十万でいいのよ、二十万。出してくれるのか、くれないのか。わたし、宮ちゃんは別個にして、あんたと付き合いたいのよ」
 まるで追い討ちである。

 これから先もイチコは二つの世界を住み分けて行かなければならない。ましてこちらの世界にたとえ片足でも、突っ込んでいる以上は、不義理だけはできない。
 そんな事をすれば、陽のあたる世界の者がやった以上にもの笑いのタネになるだけである。
 ご法度であるトイチの金主になって欲しいと言うからには、不二子さんもかたぎでありながら、裏社会に根を張っていることになるのだ。
 さまざまな意味で、イチコは若輩ながら、不二子さんがくわしい説明をしてくれることを期待していた。
 しいてその理由を挙げるのならば、イチコの思いでは、それが礼儀だからである。
    


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コメント


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 正直不二子さんの言動にカチンと来ました。
 言葉で表すなら「それが人に頼む時の台詞か?」と、私なら縁やお世話などお構い無しにお帰り頂きますね。ですが、それは私がまだ子供故の判断。大人には大人の事情があり、すぐに否と答えを返すのが簡単なわけでもないのでしょう。
 んむぅ……やはり、大人の事情は複雑です。

神瀬一晃 | URL | 2007年08月06日(Mon)19:20 [EDIT]

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