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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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台風の目(5)

 貫禄の不二子さんは、借用証書の用意も周到だった。
 奥の間にある金庫からイチコが現金を持って来ると、
 「これ、預けとく」
 現金と引き換えにそれをイチコに渡した。
 受け取ったイチコの方は、少々戸惑った。
 借用証書の債務者の署名が不二子さんではなかったのである。
 署名はイチコが会ったこともない、浅見竜也という男になっていた。本来ならば、どう考えても不二子さんの署名でなければならない。
 「ちょっと待てよ」
 とイチコは言い掛けた。そして、このことばも喉の奥に呑み込んだ。

 イチコに法的知識がないわけではなかった。むしろその逆で、イチコの交友関係には、司法書士の先生がいた。イチコがこの街に来て知り合った数少ない信頼のおける存在だった。
 敬愛しているとイチコは手放しで言ってもいいくらい、この先生が好きである。奥さんもいい方だった。
 その影響のためか、イチコは法律書を読むことも厭わなかった。分からないことは、この先生に聞けばよかった。

 不二子さんが入れたせっかくの借用証書に関して、あまり固い事を言っても汚いだけか、とイチコは緩和したのである。駆け出しのペイペイが、そんな事でものを言うのも気が引けた。
 どのみち回収は不二子さんの役になるのだから、それさえ完璧に分かっていてくれれば問題になる事はなかった。

 「この事は宮ちゃんには黙っててよ。分かったらわたしも怒られるだけだし、あんただってそうなったら叱られるんだから。それはイヤじゃない? わたし、あんたに儲けさせてあげようと思って。だから言ってるのよ」
 貫禄の不二子さんは帰り際、そう言い残した。
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コメント


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 なんというか、私は段々不二子さんに疑念を抱き始めましたw
 署名が他人名義って……この先本当にどうなるんだろ。なんか、本当にリアリティがあり、そういったのを含めて先が気になります。
 本当に儲かるのか? とか、思いつつ、違法なんだよね? と私なら躊躇してしまう気がするなぁ……。

神瀬一晃 | URL | 2007年08月09日(Thu)21:08 [EDIT]

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