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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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台風の目(11)

 イチコはいつもうまい具合に不二子さんに捕まっていた。まるで、その生活をマスターされているかのようである。
 引っ越してしまった今は、廊下の洗濯機にもその原因があったとイチコは思っている。設置場所が悪かった。

 以前住んでいたマンションは相当古かったため、洗濯機を浴室に置くスペースがなく廊下に置いていたのだが、その廊下にそれ専用の蛇口がなかった。蛇口がないものだから、浴室の窓を開けっ放してホースをそこから引くようにしていた。うっかり外出も出来ない状態だったのである。
 したがって洗濯機が回っていればイチコの在宅は確定していた。
 おまけに仕事をしながら、息子たちの空手道場やらスポーツ少年団に付き合っていたイチコは、平日でも分刻みの行動が多かった。山ほどの洗濯物は隣近所に迷惑とは知りながら、夜中にすることもよくあったのである。そうしないと片付かなかった。
 今のマンションは、洗濯機の設置スペースが部屋の中に定められているので、廊下への行き来のために玄関のドアロックが甘くなるということはない。不二子さんが来て、いきなりドアを引き開けるようなことだけは起こらないのである。居留守だって使おうと思えば使えるのだ。

 こんな事をイチコが考えているのを知れば、おそらく不二子さんは気を悪くするであろう。現在イチコが借りているマンションの保証人二人のうちの一人は、他ならぬ不二子さんなのである。
 賃貸借契約の際、保証人として不二子さんに署名捺印をしてもらうまでには、さまざまな言い争いがあった。イチコはそれらを無視して強引に契約実現にこぎつけたのである。
 父親が平成十六年に他界して以来、息子たちがいなければ天涯孤独の身であるイチコには、絶対にはずせないところだった。
 心の中では、イチコはどんなことがあろうと彼女に迷惑を掛けたりしない、と固く誓っていた。それが口先だけになっては元も子もないのであまり言えなかったが。
 もう一人の保証人には、契約時すでに就職が決まっていたイチコの長男がなっている。近い将来、必ず彼女の名前を保証人から外せるときが来るに違いない。そのとき、やっとイチコは過去から開放されるのかもしれない。
 今はもう一人の息子を社会に送り出すことに専念したい、とイチコは思っている。どんないきさつであれ、望ましい環境を得られた事にイチコは満足している。

 だからといってこんな住まいであれば、あの平成七年に不二子さんに捕まらずに済んだとはイチコも思ってはいない。彼女はイチコの職場にでも無心に来る人だった。
 イチコがひそかに懸念していた大口のトイチ契約を不二子さんが持ちかけて来たのは、その職場だった。
 












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