始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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台風の目(12)

 エメラルドが苦戦することは、素人のイチコでも最悪のケースとして想像していた事だった。時計の方も同じようなものだろう、とイチコは思っている。
 「あれはどうなったの?」
 イチコは、職場に訪ねて来た不二子さんに思い出したようにエメラルドの行方を訊ねた。
 「ウン」
 少し小首をかしげた彼女は、
 「今、大きいとこに持って行ってもらってる」
 その様子では商談の進展はないようだったが、店の通路でするような話ではなかった。
 客とも言えない不二子さんの処置にイチコは戸惑っていた。
 不二子さんがイチコの職場を訪れたのは、この日が初めてだったのである。
 「あんた、このあいだの」
 不二子さんが口ごもって何かを言い掛ける。
 その何かを、イチコは聞かなくても知っていた。解約返戻金の残金のことを言っているのだった。
 「あんた、二百。二百出してやって。今日どうしてもいるって言って来てるのよ」
 不二子さんは押し殺した声で早口に言った。
 浅見という男のことであるのは間違いなかった。その男が不二子さんの見つけたトイチのいいカモなのか、あるいはもっと別の関係なのか、確認してみたい衝動にイチコは駆られていた。
 それはイチコにとって、禁断の衝動である。彼女が言い出さない限り言うべきではなかった。イチコはぎりぎりのところで踏みとどまった。

 通路でヒソヒソ話をしているところにやって来たイチコの同僚は、不二子さんを親戚のおばさんとでも思ったらしく、
 「きょうはもう上がらせてもらったら? 後はわたしがやっておくから」
 イチコに向かって微笑んでみせた。イチコの亡き母と同じくらいの齢の人である。

 
 
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コメント


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 やっぱり中々上手くは行っていませんね。
 というか、逆に悪くなって行く一方のような。
 イチコも半分諦めているような感じでしたね。
 この先さらにどうなって行くことやら。

神瀬一晃 | URL | 2007年08月12日(Sun)13:16 [EDIT]

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