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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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記憶の引き出し(7)

 宮下の裁判の判決は、イチコが願っていたとおり、執行猶予を付せられたものだった。
 今回の事件で宮下は不二子さんのことをよほど腹に据えかねたのか、
 「あれは腹がグロイんやから、あんなババアと付き合うな」
 などとイチコによく言うようになった。そのたびに宮下に内緒で不二子さんに金を貸してしまったイチコは、どきっとしたものである。いくら家の金に手をつけなかったとはいえ、何が起こるか分からないのが宮下の稼業である。これから先、このつまづきが大きな影を落とすことになるかもしれないと思うと、回収への焦りと彼女に関わってしまった事への後悔が押し寄せて来るのだった。

 浅見という男の消息について、正直なところイチコは探してみる気はなかった。一度電話で声を聞いただけの、実在しているかどうかも怪しい男のことなど、どうでもよかったのである。もう二度と縁はないであろう、とイチコは思っていた。しかし、それも不二子さんが言って来るまでの話だった。
 「あんた、あの子、今宮ちゃんのところで一本化してもらって払ってるから、少し待ってやって」
 ある夜やって来た不二子さんが、イチコにそう告げた。どこにいるのかも分からない浅見竜也のことを言っているのは、イチコにも分かった。実在していたのか、と一時不二子さんを勘繰っていたイチコは変に安心した。
 宮下のところで一本化という事は、宮下が取立て依頼を受けて面倒を見ているという意味で問題ないはずである。
 宮下のところに話が持ち込まれているという偶然に、イチコは少し驚いた。債権者が何人いるのか分からないが、浅見という男は、「一本化」しなければならないほどあちこちに借金があったという事になる。
 このご時勢に宮下のところに話を通されるような男ということは、イチコの予想どおり堅気でないことは明らかだった。
 
 宮下がケツ持ちなら話は早いはずである。
 不二子さんも他の債権者といっしょに宮下に面倒を見てもらえばよいではないか、とイチコは思った。自分の名前など出さなくても、そこのところは何とかなるであろう、と当然考える。
 しかし、不二子さんの話し振りでは、宮下に話を通している様子はなかった。 

 実際にイチコのところにある浅見の債務と思われるのは、大雑把だが約三百くらいだった。
 宮下に取り立てを依頼すれば、「取り半」つまり、折半のことであるが、そうなる事は間違いない。しかし、相手がそのような借金だらけのやくざ者なのだから、逃げられるよりマシというものである。確かに「取り半」だと手取り百五十にしかならないのだから、三百にしてイチコに返すためには追い金が必要だが、それが損か得かは、不二子さんの考え方にもよる。普通ならば、宮下に抑えてもらっておけば浅見に逃げられずにすむのだから助かると考えるはずである。
 
 イチコは不二子さんが何を考えているのか、測りかねていた。
 別の夜には、やって来たと思いきや、イチコの顔を見るなり、 
 「あんた、宮ちゃんがあの子から金利を二重取りしてる」
 いかにも宮下のことをにくにくしげに言うのだった。
 このご注進は、極めて重大な内容だったが、宮下が向こうの方で勝手にやっていることである。イチコには、なすすべはなかった。
 この話を宮下に問い合わせれば、まったく違う答えが返ってきそうである。今回の事件で二人の食い違いが身にしみているイチコは、こういう話はうるさくてかなわなかった。この二人、またか、と思ってしまうのである。 
 それに加え、不二子さんが浅見竜也のことを、あの子あの子と呼ぶのも引っかかっていた。自分に向けられたわけでもない宮下の悪行を言いに来るとは、いったい何が言いたいのか。悪行高いやくざのところで磨くのは、浅見がかわいそうだから、イチコのところで磨かせるとでも言いたいのだろうか。
 浅見とてやくざとたいして変わらないのではないか。
 あの子って、何だ? とイチコは思っている。口には出さないが、不二子さんとのからみも気になるところだった。

 不二子さんがいくら浅見の事で宮下の素行をご注進に来ようと、イチコが金主として彼女に融資したトイチの貸付金を磨くのは、浅見ではなく彼女である。彼女が浅見云々と言って来るのは、所詮お門違いというものだった。
 宮下の世話にならないのなら、全額責任を持って磨くのは、原則どおり不二子さんである。イチコはそのつもりでいた。
 たとえ、浅見がその三百の債務をイチコに弁済したとしても、残り五百五十は彼女が磨くことになるのだ。少しずつでも磨いて行かなければ、大金でも手にしない限り、終る債務ではない。
 イチコは一日も早く回収したいのである。待ってくれ、と言うが、なぜ浅見を待たなければならないのか、という話だった。 
 
 



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コメント


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神瀬一晃さまへ

 専門用語といえるかどうかは分かりませんが。分かりにくかったですか?
 作者としては十分吟味したつもりなのですが。イチコが浅見という男を推理する部分に説明を含ませたつもりです。あまり露骨に書くのも無粋かなあ、と思ってそうしました。
 もう一度吟味してみますが、修正にはいたらないかもです。
 

紗羅の木 | URL | 2007年08月23日(Thu)21:09 [EDIT]

 ん~。
 専門用語? が色々あって、ちょっと意味が分からない部分を読み飛ばしつつ、結局不二子さんって、いっつも他力本願というか、自分で責任とろうとしてないなぁ……。

神瀬一晃 | URL | 2007年08月23日(Thu)10:50 [EDIT]

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