始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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記憶の引き出し(8)

 不二子さんが浅見の消息を握っていることは確かだったが、それだけではイチコには何の進展ももたらさなかった。
 事態がほんの少しだが、回収に向けて動く気配を見せ始めた事もあったが、それもイチコの期待に反して残念な結果に終ってしまっている。
 
 それは宮下の事件の翌年のことだった。
 「わたし、入院するから。当分店は閉める」
 平成九年某月、ある日イチコのところにやって来た不二子さんの第一声である。
 不二子さんが何の前触れもなくやって来るのはいつものことだった。イチコをぎょっとさせるようなことを告げに来るのも毎度のことである。すでに彼女のやり方に慣れたつもりでいたイチコだったが、またぎょっとなった。
 彼女が店を閉めるとなれば、ますます回収のめどは立たなくなる。水商売だからこそ頑張れば返せるというものである。
 「だから入院給付金で返すから」
 イチコの思っていることを見抜くかのように不二子さんは言った。
 彼女から聞かされた病名はイチコの記憶違いでなければ、高脂肪血症だった。見た限りでは彼女の体はどこも悪くはなさそうだったが、水商売で酒を飲む機会も多く、少々肥満気味だった彼女には不思議な病症名ではなかった。
 高脂肪血症の病症名で生保の入院給付金が出るのかどうかは、イチコにも分からなかった。が、彼女の話では保険だけはあちこちのセールスに頼まれて何社もの生保会社にかけているのだ、ということだった。あのバブルの時期に契約したものであろう。それを彼女は頑張って払い続けていたということになろうか。それなら、いくらかはうちの借金返済が出来るかもしれない、とイチコはこの話に少し期待していたのであるが、退院してその請求手続きを済ませた彼女がくれた報告は、イチコのわずかな期待をも裏切った結果だった。
 「あんた、わたし、同級の○○くんが不二子、ちょっと貸してくれって言うから貸したのよ。そしたらそれっきりなの」
 イチコは間違いなく、このときはそう聞いた記憶が残っている。
 給付金がまったく降りないところも何社かあったようである。
 どこまでが真実なのかは分からないが、こうしてイチコの債権回収は不発に終ったのである。
 退院した不二子さんは、店を再開することもなく、翌年国内でも大手の生保会社に外交員として入社するのである。要するに保険のおばちゃんである。
 不二子さんの言うとおり、待つこと以外、イチコはなすすべをなくしたのである。宮下にいくら付き合うなと言われていても、付き合わざるを得ない状態だった。
 



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コメント


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神瀬一晃さまへ

 サボリはわたしもいっしょなので、大丈夫ですよ。
 好きなことを好きなだけやりましょう(笑)
 他ならぬ神瀬くん(?)なので、一言だけ。根底には、金を回すという考え方が色濃く流れております。金ならなんでもいいんだ、というやつですね。不二子さんという人間を理解するにはこれが重要なポイントになります。謎解きを展開する気はないのですが、どうもその要素が強くなってしまったように思います。基本はイチコの生き方なのですが。
 

紗羅の木 | URL | 2007年08月28日(Tue)11:53 [EDIT]

 お久しぶりです。
 最近訪問をサボっていて、申し訳ないと思っていて、今日は訪れました。
 イチコも既に不二子さんに対しては、お金の回収の意識くらいしかなくなってきているようですね……。入院という言葉に、心配するよりも先にお金のことが先にでていましたし。
 ですが、その気持ちもわかります。あれだけの大金を、まだ半分も回収しきれていないのですから。
 結局このお金は回収されずじまいになるのでは……と思い始めております。
 では、こんな私ですが、これからもよろしくお願いしますです。

神瀬一晃 | URL | 2007年08月27日(Mon)13:40 [EDIT]

追記。
奈須きのこさんでしたら、講談社からでている『空の境界』がおすすめですよ。
今年の夏映画化もします。

雨宮千歳 | URL | 2007年07月23日(Mon)23:42 [EDIT]

 こんばんは。はじめまして。
『積読本が多すぎる』を営んでいる雨宮千歳です。
小説を全部読ませていただきました。
さすが、大人の女性の書く小説だなぁとおもいました。
わたしのようなひよっこには、このような設定思いもつきません。
ただ、展開がちょっと急いでいるのが気になりました。
でも、イチコの性格が好きです。

わたしも小説を書いています。よろしかったら遊びに来てください。

雨宮千歳 | URL | 2007年07月23日(Mon)23:41 [EDIT]

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