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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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試練(4)

 自宅療養に一番頭を抱えていたイチコは、調査委員さんの方は任せなさい、という担当医のことばに甘えることにした。介護保険の話である。病院の方に来てもらって認定の調査をしてもらいなさい、と担当医は付け加えた。医師が付いて調査を受けると随分違うものらしい。
 たとえ要支援でも認定を受けられる方がイチコも助かるというものである。透析患者とはいっても自立しているわけだから、今は要支援でも十分だった。将来なんらかの障害が出たなら、一定期間経過後、再度認定調査を申請すれば認定度数の変更は可能なのである。
 イチコが介護できない状況である以上、自宅療養の不便さを介護保険の範囲内でヘルパーさんに補ってもらえるのなら、それに越したことはなかった。いくら家賃が要らないとはいっても、イチコが働いて十万円を入れさえすれば父親が何とかやっていける方法はそれしかなかった。
 介護保険制度は平成十二年四月に施行された制度である。この当時は、まだ始まったばかりの制度といえる。現行の制度はさまざまな曲折を経て十八年四月に施行されたものである。認定結果が出るまでには認定調査の申請から一ヶ月程度かかる。

 父親の透析は予定どおり年末から開始された。新年を待って役所で認定調査の申請を済ませたイチコは甘えついでに、担当医に暖かくなるまで入院させて欲しいと懇願した。寒い時に帰って来て風邪でも引かれるよりは病院にいてくれる方が安心だという患者の家族は多いものである。担当医は即答で承諾してくれた。
 イチコは、実家の片付けに要する時間も欲しかったのである。父親が退院して戻って来るまでに何とか済ませてしまいたい、と思うイチコだったが、真夜中しか空いている時間はなかった。これでは何日掛かるか分かったものではなかった。それほどひどかったのである。

 父親のやもめ暮らしが長かったせいもあるが、いたずらに家が大きいと物を置くことに不自由しないものだから、捨てなければいけないものまで取ってあるのだ。そのうち山となってしまい、片付けるのがおっくうになって来たのであろう。亡母の生前からのものまで、その状態で溜まっていた。イチコは、体が許す限り夜には車を飛ばしてこの片付けに通った。
 せっかく退院して帰ってきても、何かに躓いて転んだりしたら危ないという事もあったが、退院後の生活をヘルパーさんに頼む以上、少しでもきれいにして置きたかった。そうでなくても便利の悪い生活空間に来てもらうのだから、ゴミ屋敷では気の毒だと思ったのである。恥ずかしくもあった。

 家を空けることが多くなったイチコは、ためらうことなく父親について息子二人にすべて打ち明けた。これから先、何が起こるか分からない、という思いがそうさせたのである。
 「あのオジイだきゃあ、何考えとんや。そしたら俺ら、もう小遣いもらえんやん」
 「もらっても意味ねえし」
 話を聞き終えた息子たちの第一声である。さすがに年齢相応の感想だった。
 イチコは宮下の稼業については息子たちがもっと幼い頃に話して聞かせている。知ることによって得られるものは大きいはずだとイチコは思って来た。たとえそれが目をそむけたくなるようなものであっても、イチコの考えは変わらない。イチコたち親子三人が迷わず生きて行くためには必要な事だった。
 「圭ちゃんには働きに出てること黙っててね」
 イチコは二人の息子に言った。いまさらバラせば、おかしなことになるのは目に見えていた。 
 宮下に嫌われていようと、ここで宮下の力を欠けばイチコは立ち行かなくなるのだ。だからイチコは、強気である。自分で働いて払う分には文句はあるまい、と思っている。
 宮下にバレるとしたら、まず息子からだとイチコは思ったのだ。
 息子が二人とも中学生になってからは、生活費の方も事務所の者が持って来ることが多くなっていた。その者を寄越すときには、宮下は必ずイチコの在宅を確認するのである。受け取るのは息子なのだからイチコがいなくても変わらないはずだが、昔、子分に持ち逃げされた経験がそうさせているのであろう。イチコがいないとその日は生活費が届かないことになる。この確認電話をやばいとイチコは思ったのである。イチコが不在のときは買い物に行っている、くらいがちょうどいい返答である。
 「わかった、オヤジにそう言うたらええんやな。けど、月末だけでも早く帰って来るようにしろよ」
 長男が答える。
 むろん、イチコもそのつもりではある。間に合わなかった場合の話をしているのだった。
 宮下が連絡を入れて来る時間帯はだいたい晩方六時以降三時間程度の幅を持たせた時間だった。
 圭ちゃんとは圭介だからである。息子が幼い頃は、宮下のことが話題に上れば、当然のようにパパと呼んでみせていたイチコだったが、いつの間にか圭ちゃんにすり替わってしまっていた。



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コメント


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ウル様へ

 ウルさん、こんばんは。
 試験、ご苦労様です。
 伏線の設定、難しいですね。書き上げたあとでつくづく思いました。
 完結ぎりぎりまで回収に苦しみました。おかげで、説明不足の多さを感じていますが、今少し寝かせてから振り返ってみようと思っています。
 宮下と不二子の言動はほとんど伏線になっているつもりです。が、二人ともビミョーに嘘つきなので要注意かな、という感じです。
 本日はご訪問、コメントありがとうございました。
 

紗羅の木 | URL | 2007年12月07日(Fri)23:55 [EDIT]

今学期の試験がすべて終わったので、やっとまとまった時間ができまして、早速訪問に来ました。
今日はここまで読ませていただきました。やっぱりまとめてたくさん読みたいですからねー。

だんだんと物語が展開してきましたね。
これ、伏線なのかなー、そうなんだろうなー。でもわかんないなー。という感じで読ませて頂いてます。
推理しても私じゃ無理そうなので、逆に物語に飲まれる(?)くらいのつもりでw

不二子さんが怖いです、いろんな意味で。こちらまで彼女に丸め込まれてしまうような錯覚を覚えますね。賢いというかなんというか……。
お金は回収できないのだろうという予感が物凄ーくしますね(笑)
イチコが最後に何を知るのか、楽しみです。

ウル | URL | 2007年12月07日(Fri)20:04 [EDIT]

神瀬一晃さまへ

 こちらではほんとにお久し振りです(笑) 
 更新はなんとか続けてますよ。苦戦しながらですが。
 今のカテゴリーにエピローグを書き上げれば終わりになるという予定です。たぶん、ですが。
 神瀬君がいつか言っていたように、全編お金の話で埋まりそうです。それでもよければ読んでやってくださいな。約束どおり置いておきますので。
 また深夜おそーく行かせて頂きますね。
 本日はありがとうございました。
 

紗羅の木 | URL | 2007年10月08日(Mon)02:33 [EDIT]

 お久しぶりです。
 やっとまともな暇を見つけて、訪問しに来ましたw

 作中での息子の方言に、少し和みました。
 関西辺りの方言ですかね?w
 方言ってやっぱりいいですよね、地方独特の雰囲気があってw
 私も地元の方言を小説に生かしてみましょうかねw

 いつもいつも、私のブログへ足を運んで頂きありがとうございます。
 そういえば、今日気付いたのですが、ミスキャストというカテゴリが増えていますね……w
 こんなスローテンポで読んでいますが、いつかちゃんと最後まで読んで見せますよw

神瀬一晃 | URL | 2007年10月07日(Sun)22:11 [EDIT]

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