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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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試練(15)

 「あんた」
 不二子さんは、くぐもった声を発して語り始めた。
 「宮ちゃん、子供がいるのよ。女の子。もうだいぶ大きくなってるはずよ。あれからわたし、宮ちゃんとその話をしないから。十歳まで行かないかもしれないけど。わたし、いつ聞いたかしら、その話」
 イチコは自分の予測が当たっていたことに、衝撃を受けた。衝撃というよりは、麻痺していた感覚が戻って来たというべきかもしれない。宮下に対するときは、感覚を殺している方がイチコは楽だったのである。その楽な方法を選んで生きてきたことは、本人であるイチコが一番よく知っていた。
 イチコの反応を確かめるかのように不二子さんは黙っていた。彼女の無言の息遣いが流れて来る。
 「いつ聞いたの?」
 イチコは先を促した。
 イチコも女である。夫の不実を知らされて平気なわけなかった。しかしイチコはそんな素振りは見せなかった。瞬時の判断で黙って彼女の回想に身を任せることを選んでいた。
 宮下が新たにもうけたという子供の推定年齢を聞いたイチコの脳裏には、或る疑惑が芽生えていたのである。その疑惑を早く解明したかった。
 「おかん、ひとつ言っておくって宮ちゃんがそう言って来たのよ。だからわたし、あっちに言ってもいい話なのかって聞いたの。そしたら言ってもらっては困るって。それならわたし聞かないって言ったのよ。でも宮ちゃん、子供が出来たって言うから」
 不二子さんの話は長い前置きで始まった。あっちとはイチコのことである。イチコには今まで内緒にしていた言い訳にしか聞こえない。
 「あんた、移転して新しくなった店、知らないわよね? まだその店があるころの話よ」
 「その店にあのひとが来たの?」
 「そうよ。そうだったわ」
 不二子さんはその当時を思い出すような口調で答えた。
 この話から推測して、宮下の子供の生まれた年は平成七年以降であるはずはなかった。子供のくわしい生年月日が知りたいとイチコは思った。
 移転した店ということは不二子さんの商売歴の中で一番経歴を誇るスナックのことである。平成九年に彼女は水商売から身を引いたのだが、三軒の店を九年に一気にたたんでしまったわけではなかった。毎年一軒ずつたたんで行き、後始末こそ遅れたが九年に最後の店をたたんだのである。家賃水準の高いものから閉店して行ったというのだから、一番古参のスナックを閉店したのは平成七年ということになる。
 七年はイチコが一番封じ込めてしまいたいと思っている年である。今あることは、あの年のおかげのような気がしてならないくらいだった。
 あの当時、普通ならば真夜中の一時二時というと宮下が帰って来る時間帯のなのだが、不二子さんは非常識にもその時間帯にばかり来ていたのである。彼女は最初から宮下が帰って来ないのを知っていて来ていたのではないか、とイチコは怪しんだのだった。
 
 イチコの期待に反して、不二子さんの話は相手の女のことや、子供に関することで取りとめのないものばかりだった。それもイチコにとっては不愉快なものばかりである。
 宮下は、
 「俺は女の子が可愛いんや」
 ととりわけ女の子の誕生を喜んでいたという。それはそうであろう、とイチコは思う。宮下は昔から女の子を欲しがっていたのである。だから野郎などどうでもよくなったということなのか。イチコは自分の子供を腐し続けた宮下の心境を想像してみる。憎たらしさがこみ上げて来るのだが、それは宮下に対してだけでなく、こんなことをぬけぬけと言える不二子さんに対しても同じだった。
 女の方は化粧品などを売る仕事をしているらしく、当時宮下の事務所にはサプリメントの箱が山と積んであったという。
 「いらないって言っても、まあ持って行けやって。宮ちゃんがくれたわ。今度の女は楽なんだって言ってたわよ。宮ちゃん、楽な女がいいのよ」
 楽な女とはどういう意味なのか、イチコは宮下に聞いてみたいと思った。 
 「あんた、このことは宮ちゃんには内緒にしててよ。そうしないと、宮ちゃん、あたしに本当のこと何も喋らなくなるから」
 不二子さんはそう言って話を締めくくった。この最後のことばにイチコはこれまでにない屈辱を感じた。

 


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コメント


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神瀬一晃さまへ

 こんばんは。
 インターバル? 
 さっそくお伺いしなければいけませんな(笑) 非常に気になります。

 「屈辱」 イチコの一生をかけてもこの屈辱は多分消えることはないでしょうね。
 多くの説明を必要としないであろうという、読者様に甘えた描写ですが、分かって頂けてうれしいです。

 ブログ名、いつまでも「イチコ」では先に進まないので変更しました。届出遅れて申し訳ないです。この先、当分変更しない予定です。
 

   

紗羅の木 | URL | 2007年11月14日(Wed)09:21 [EDIT]

 こんばんは~。
 今日はここまで読みました~。
 現在インターバルです。

 遂に発覚した衝撃の新事実。
 イチコはどうするんでしょうかね。最後の“屈辱を感じた”という言葉の意味は、なんとなく察することができますね。

 そういえば。
 ブログの名前が変わりましたね。
 それに伴って、私の方でも修正をさせて頂きます。
 ではでは。

神瀬一晃 | URL | 2007年11月13日(Tue)21:03 [EDIT]

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