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始発駅

「イチコの選択」では大変お世話になりました。無事連載を終えた今、このブログで何ができるのかを考えています。のんびりお付き合い頂ければ幸いです。

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試練(17)

 平成十五年。
 宮下の不実をイチコに暴露した不二子さんは、新しい年が明けてしばらく経ったある日の事、イチコの携帯を鳴らして来た。
 イチコが応答に出ると、
 「あんた、宮ちゃんの女がわかった」
 いきなりそう言った彼女の口調はやけに殊勝げだった。
 「わたし、今日反目(はんめ)のところに行ってたのよ。そこでちょっと聞いてみたの」
 反目とは字のごとく宮下の組織と相対立する組織のことである。彼女も変なところに顔が効くものだ、と聞いたイチコは半ばあきれていた。そんなところにまで行ってわざわざ探って来てくれたのか、と思ったのである。
 出来ればイチコは子供のことは不二子さんではなく、宮下自身の口から聞きたかったのである。そのくらいの潔さは男なら持っていてもよいだろう、とイチコは思う。もっともやくざをしている者は、そうそう子供を作ったりしないものであるが。
 この二人にさらしものにされた屈辱をイチコは、宮下だけを目一杯憎むことで紛らわせていた。そうでもしなければ、この先不二子さんと付き合っていくことなどできそうになかったのである。

 女はどこかの片田舎の出身で、スナックで働いているときに宮下と知り合ったのだが、宮下との年回りの差は約二つあった。要するにオヤジと娘である。そこに持って来て女の母親がしょっちゅう出入りしているという。
 不二子さんは反目の親分さんから聞いたという女の風貌をイチコに伝えた。
 「わたし、その店に飲みに行ったことあるのよ。そのとき若い子が確かに一人いたわ。でも顔を覚えてないのよねえ。そこのママが宮ちゃんとこでお金を借りてたらしいのよ」
 そのママは、宮下といい仲になった女から「あんた」呼ばわりされた上借金の返済を迫られたため、即日、反目の親分さんに借りて宮下のところにある借金を全額磨いて済ませた。この話をイチコに聞かせた不二子さんは女の恩知らずな非常識を嘲笑しただけだったが、イチコはそのママという女性の気風(きっぷ)に感嘆していた。反逆のプライドを感じたのである。恩を着せるおまえとは大違いだ、とイチコは不二子さんに対して思ったが、口には出さない。
 「どこがよかったんだろうって言ったら、非常識なところでよく気が合うんだろうって」
 反目のがそう言ったらしいが不二子さんも同意したい口振りである。
 この彼女に非常識呼ばわりされる宮下も女もたまったものではない。イチコはなんと返答すればよいのかことばがなくて困った。
 イチコは宮下を憎む振りをして、腹の中では不二子さんを軽蔑していたのである。
 同時期、内容証明郵便で団体保険の入院給付金を再請求するのだと走り回っている不二子さんにもイチコは冷ややかな視線を送っているだけだった。保険金が降りないのは上司の手違いのせいだというのだが、それもおかしな話だった。追及する気もなかったが、信用する気もなかった。彼女のために埒の明かないものを待つ気など金輪際なくなったのである。
 「そろそろ返してくれることも考えてくれなきゃ。あなたも齢を取ることだし、間に合わないよ」
 七年にはあれほど遠慮していたイチコが、けろっとして不二子さんに言った。イチコも堂々とものを言えるまでに齢を取ったのである。
 「分かってるわよ」
 横目で見てくる不二子さんに、
 「もううちから金を持って行くな。あなたは験が悪くっていけない」
 イチコはさらに意地悪く付け加えた。
 



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コメント


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神瀬一晃さまへ

 神瀬さん、こんばんは。
 こちらこそ、しばらくさぼっていました。申し訳ないです。さきほどそちらに伺ってまいりました。
 17歳。うらやましいです。
 若い時はなかなか二、三歳年上でも言いにくいですね。職場でもそうだと思いますよ。
 歳に関係なくものが言える年齢があるとすれば、不惑の年と言われる40歳くらいかな。
 男ならその歳になるまで自分を磨いてもらい、やっと売り出せるという年齢ではないかと思います。
 その反面信頼が付いて来て調子に乗りやすい年齢でもあります。作中の不二子にしても宮下にしても平成七年時の年齢は、まさにその40代なのです。くわしい数字は出しておりませんが、想像は出来ると思います。
 間違うと、怖い年齢ですね。随分話がそれましたが、何かの指針になればと思って書き留めてみました。
 ランクリ、ありがとうございます。そちらのも書き忘れましたが、押しております。
 本日はご訪問&コメント、ありがとうございました。
 
 
 

紗羅の木 | URL | 2007年11月29日(Thu)15:27 [EDIT]

 お久しぶりです。
 こちらにコメントへ来るのが、大分遅くなってしまいました。
 最近はいかがお過ごしでしょうか?

 このシーンで、イチコが大分態度を変えたように感じましたね。今の今まで溜まっていたものが、遂に溢れ出したかのように、不二子さんへの躊躇いというか、遠慮? は違うかな……というものが薄れ、本音が出るようになってきたようです。
 今まではイチコの煮え切らない……と私は感じていましたが、実際は違うのでしょう。恐らく諦めていた……これも違うな……どちらかと言うと斜め上から物事を見ていたような……そんな感じですかね。
 そんな印象だったのですが、ここに来て斜め上ではなくて、真上から見る半面正面からも物事を見据えているような気がします。
 歳を取ったことで、貫禄が出たの……かなぁ?
 私はまだ17の子供ですので、その辺りはまだピンと来ませんが。
 とりあえず、イチコのハッキリとした態度には、どことなくスッキリとさせて貰えましたw

 不定期ではありますが、また来ますね。
 では、応援のポチッ。

神瀬一晃 | URL | 2007年11月28日(Wed)23:33 [EDIT]

銀河系一郎様へ

 振り返って思えば、宮下もおっかなびっくりだったのだろうと思います。このお話には宮下の男としての可愛い場面は出てきませんが、いつかその気になるときが来れば、宮下モデルのものを書いてもいいかな、と思ってたりします。あくまで女性視点で女性ならではのものを書きたいですね、そのときは。でも先は未定です(笑)
 いつもありがとうございます。

紗羅の木 | URL | 2007年10月03日(Wed)01:56 [EDIT]

次男の入院の保障人は即決してくれ、月の手当てもアップしてくれて、宮下も
いいところあるのかと思ったのもつかの間、隠し子発覚じゃ、イチコさんも
相当キテしまいますね。
続きを楽しみに今日はこの辺で。応援、ポチッと。

銀河系一朗 | URL | 2007年10月02日(Tue)19:18 [EDIT]

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